生きてたって死んでたって、人間だって死神だってどっちでもなくたって、好きな人のためならオシャレはしたい。
せっかく素足の季節なんだから足元だって着飾りたい。

手の爪は修行に邪魔だからできないけど、足ならいいでしょ。ね?ね?

『だから真子?ねえねえ、塗ってよー?』
「なんで俺がやらなあかんねん。」

他でもない私の好きな人のベッドに寝転がって雑誌を読む。私にベッドを占領された真子は仕方なくベッドを背もたれにして腰掛けている。
綺麗に整頓されて、おしゃれに飾ってある部屋の片隅に私の雑誌も、化粧道具も、この前脱いでそのまま置いてっちゃったブラジャーもある。これは持って帰らないとそろそろ怒られちゃいそう。

『こういうのが良い。』
「いや、俺やるともなんとも言ってないんやけど。」

真子の話を右から左に聞き流してさっき見つけたミントとホワイトのボーダーを見せる。
『ねえ、これ可愛くない?』
あ?と雑誌をのぞき込んだ真子は「俺はこっちのが好きやわ」と赤とビジューのネイルを指さした。

『なんでもいいよ、ねえ、やって?』
「お前な、"ヤッて"なんて女の子が言うもんがやないで?」
『字が違うでしょー?』

もうやってくれないならいいよ、ローズに頼むようまそうだしと雑誌片手にベッドから立ち上がろうとすると

「やらんとも言ってないやろ」

と、真子は片隅の私スペースからネイル道具を取り出した。「ブラは持って帰れや」なんて小言を言いながら。


私はもう一度ベッドに腰掛けて真子に足を投げ出した。
私はこうなるって分かってるの。何だかんだ真子が私に甘いこと。ローズって名前出したのはローズにやって欲しかったからじゃないの。そういえば真子が絶対やってくれるからだと分かってたから。


『えー、赤やだ。』
「じゃあ自分でやりーや。」
『だってうまく塗れないから。』
「じゃあ黙って塗られとって。」

真子は真剣な顔をして私の爪を赤に染めていく。塗ってみると赤も可愛い。

『真子几帳面〜!ハゲなのに几帳面!』
「人がせっかくやってやってんのになんちゅう口聞いてんじゃ」

そう言って私の足の裏を擽るから、ほんとにくすぐったくて身をよじってしまう。それでもってちょっと如何わしい声なんか漏らしてしまったから真子は動きを止めてしまってそして立ち上がり、私の顔をのぞき込んできた。

うんうん、ホントはこれなんだよ。
爪だってもちろんやって欲しかった。真子と一緒にいられればなんでもよかったんだけど。本当はさ。


「名無子、お前誘っとんの?」
『えー、爪は?』
「なあ、誘っとんの?」

ほら、こうして言ってくれるでしょう?
まどろっこしくてごめんなさい。でも、これが私なりの愛情表現なんだ。

『ねえ真子?』
「なんや?」
『好き』

噛み付くようなキスが降ってきて、私はそれを受け入れる。
これからやってくる甘い快楽を想像するだけで頭がクラクラしてしまう。
開けっ放しのポリッシュから独特の匂いが発せられているけど、もうどうにも出来ない。止まれない。


お洒落ってさ、好きな人を誘う勇気をプラスするためにしてるって私思うんだけど、ねえ、今度はどうするのがいいとおもう?


どうしたらあなたは私の誘いに乗ってくれる?
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