女子はいつの世代も占いが好きなものだ。
清音と仙太郎、ルキア。それに遊びに来ていた草鹿と恋人の名無子。彼らは現世ではやりの手相占いと言うものの話をしていた。
「うわー、仙太郎の結婚線ツルッツル。」
「そういうお前もないぞ。」
「やちるのもみてー!」
「草鹿副隊長は頭脳線が短いですね。」
『私のは?』
「名無子さんは手相より手が綺麗です。」
「ルキアさんの色の白さには負けます!」
盛り上がってる彼らの話に混ざりたくて「じゃあ俺のも見てくれ」と手のひらを差し出したら

「うっきーこの線短いね!!」
「これは…………」


「「「生命線ですね。」」」
という流れになったのが今日の昼。



横で名無子は真っ青になるからみんなが「ただの占いです!!」って励ましていたけれど、名無子はしょんぼりしたまま仕事に戻っていってしまった。

生まれた時に自分が泣いて周りが笑い、
死んだ時に自分が笑って周りが泣く。
そんな人生が一番良いという言葉を聞いたことがある。あの名無子の反応を見る限りではきっと俺のために名無子は泣いてくれるんだろうなと思ったら生命線が短い事実よりも、それほどにまで名無子から愛されてることが伝わってきたことが嬉しかった。だけどそういう問題でもなさそうだ。



『十四郎さん、仕事終わった……』
仕事から帰った名無子は俺の元へ帰ってきた。いつの間にか自分の部屋には帰らないようになってずいぶんとこの部屋にも名無子の私物が増えていた。急いで帰ってきたのだろう。肌はしっとり湿っていた。
きっと元気の無いまま帰ってくるだろうとおもって名無子の大好物である久里屋の最中を買ってきておいた。「おつかれ、最中あるぞ」と声をかけたけれどいつもと反応は違ってそのまま静かに歩いて俺の膝の中に収まってきた。

「昼の、まだ気にしてたのか?」
『だって…
十四郎さん体弱いでしょ?もし私と一緒にいない間、その、どっかに消えちゃったらって思ったら……いつかそんな日が来たら……って考えてたら……って。』
尻すぼみに小さくなっていく声のボリュームにふっと笑いを漏らして頼りなく丸まった背中を撫でた。

「生命線の長さが寿命の長さじゃないらしいぞ」

それを聞いた名無子が腕の中から顔を上げて、まんまるの目を輝かせている。

「俺は現に長生きだしな。大丈夫。」
『そうだね、それならいいね!!!!!最中食べよーっと!!』
元気に腕の中から飛び出すと最中に走っていった。小倉にしようかな、栗餡にしようかなーと迷っている後ろ姿をみてまたさらに彼女への愛しさが増して「半分ずつ二人で食べよう」と声をかけたら極上の笑顔が帰ってきた。

それでもまだ名無子は不安だったのか言葉には出さなくてもいつも異常にくっついてきて、布団に入っても着物の裾をがっちりと掴んだままでいた。向き合って抱きしめてやるとようやく落ち着いたようですやすやと眠りについたのであった。
そんな姿を見て俺も眠りについた。


次の日の朝、手のひらから伝わるくすぐったい感覚で目を覚ました。腕の中にいた名無子は既に布団から飛び出して俺の手のひらに何かを書いていた。手のひらを見れば昨日短いと指摘された線のさきから黒い線が手首の方まで伸びていた。
「どうした?」と声をかければ
『みてこれ!』 と、誇らしげな声が帰ってきた。


『あのね!思い出したの!手相占いでね、欲しい線は書いちゃえばいいんだって。これね、現世においてある手とか洗っても落ちないペンって奴なんだよ!!』

だから毎日一緒にいて、私が書き足してあげれば生命線のながーいながーい十四郎さんでいられるよ?素敵じゃない?ずっと一緒にいられるよ?




とあまりにも無邪気に笑うもんだから途中で眠りを妨げられたことも忘れて笑顔になった。


誰かに評価される立派な人生よりも、名無子を泣かさずに隣で笑っていられる人生の方がよっぽど価値があるものだと、心の中で思っていた。


(DOGOD69様より/油性ペンで書いた生命線)
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