『なんですかー?これ?』
「現世のお菓子やで」
『お菓子っ!?』

目を輝かせてそれを見つめるのは最近お気に入りの名無子だ。
ちっこくて、人懐っこくて、大きな目をくりくりさせてまるで子犬みたいに可愛い。
リサんとこの隊の子やけど、用事があって5番隊に来るとついつい構ってしまうほど可愛い子や。

今日は11月11日。
現世ではいつの間にかあるお菓子の日なんて呼ばれていた。
ほっそい棒状のビスケットにチョコレートがかかっている現世ではほとんどの人が知っている有名なアレ。


「欲しいか?」
名無子は瞳をキラキラさせて頭を縦にブンブン振っている。
俺は箱から1本それを取り出して彼女に渡すと一口パクッと頬張った。口元からパキッと音がした。モグモグと咀嚼しているその口元がいつもの名無子と似つかわしくないほど扇情的で、俺ン中の加虐心を煽った。

『おいしい!平子隊長美味しいです!!!』
そういった彼女の声でハッとして彼女を見るといつもの顔でニコニコ笑っていた。
だけど芽生えてしまった加虐心を抑えることはできなさそうで


「それな、そう言う食べ方やないねん」
と、言ってしまった。


『どういう食べ方なんですかー?』
と素直に俺を見上げてきた。

「これをな、んーってくわえてみ?」
『ほふへふは?』

「それでな、離した方が罰ゲームなんやけどな?
両端から2人でこれ食うねん。」

そう言って少し屈んで反対側の端を咥えた。
顔と顔の距離はおよそ10cm。名無子の真っ赤な顔もよく見えれば、息遣いもわかる。

『ちょ、平子たいちょ……!!』
「離したら負けやで」

俺はその顔を見ながら少しずつそれを食べすすめた。
ただ単純にカワイイ、と思てただけなんやけどな、
こんな色っぽい顔も出来るんやな、と思ったら心がざわざわしてきて
このまま押し倒したい気持ちを抑えるのに必死になっていた。

いよいよそれは残り3cm。
名無子はぎゅっと固く目をつぶっている。

最後の一口を食べようと……







「邪魔するでェ。ウチんとこの名無子が、って真子何しとんねん。」

ノックもせずに勢いよく入ってきたのは8番隊隊長のリサやった。
俺と名無子の姿をみて勢いよく名無子を引き離し自分の後に隠した。

「何やっとんねん、変態!ハゲ!セクハラで訴えるぞ。」
「俺はハゲとらんし、変態はお前に言われたないわ!」
「アカンで、名無子。コイツセクハラで降格にしてやらな」
『……!!』
「あー、もう来てみてよかったわ。」

名無子は真っ赤な顔でリサの後ろに隠れながら俺を見ていた。


「名無子、"また"な。」
『……はい。』



それは次も期待していいという事だろうか。
期待すんなっちゅー方が無理やな。
リサからは「遊びなら殺す」という目線で見られてるけど、俺、惚れた女は大事にするで?

あー、早くまた遊びに来んかな……。
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