眠る君に秘密の愛を

「そろそろ席替えでもするぞー」
と担任が言った。進級して新しいクラスになってからずっと出席番号順に並んでいた机。
中間テストも終わって心機一転、と言った所なのか。
そろそろ暑い季節になってきたから窓際の席がええなーとぼんやり思いながらくじを引いたら本当に窓際の一番後ろの席になった。
ガタガタとみんなが机を動かす。いち早く机を移動し終え、窓の外を見ていたオレに
『わー!隣真子なんだね!よろしくね!』
と明依が声をかけていた。
今日の明依はいつもおろしている髪を一つには高くまとめていた。
「なんだ、隣明依なんかー!うるさなるなァ。」
というと、
『わ、酷い!!』
とオレの肩を叩いてきた。
「そんな怒るなや!今日の髪型可愛いで!」
『そー?何か今日暑くてさ、しばってきちゃった!』
そう笑う明依の笑顔が眩しい。
先日の階段事件以来妙に明依を意識してしまってるオレがいる。
好きになったって彼氏がいる明依とどうこうなれる訳じゃないだろうに不毛な道やと自分でも呆れている。
「ま、よろしゅうなァ!」と声をかけていた目線を窓の外にうつした。




5現目の開始を告げるチャイムが鳴った。
先生はまだ来ていない。
『わ、無い。無い。えー、無い。』
横で明依が何かを探している。
「どないしたン。」
『英語の教科書忘れちゃった…』
「ほかのクラスの奴にに借りて…来るンは無理やなァ。始まってしもたもンな。」
『ちゃんと確認してればよかった…ね、真子見せてくれる?ダメ?』
「構わんへンけど…」

『ごめんね』といいながら明依が机をピッタリくっつけた。教師が入ってきて授業が始まった。
オレは教師が黒板に書いたことをとりあえず写しはしていたけれど全く集中できなかった。
肘と肘がぶつかりそうな距離に明依がいる。なんだかいい匂いはするし、明依が顔を上げたり下げたりする度に揺れるポニーテールの毛先を目の端で眺めてしまう。
その視線に気づいたのか明依は俺の方を見てちょっと笑い「つまんないよね」と声を出さずに言った。少し笑ってうなづいて意識を黒板に写すと最後に写した所からだいぶ内容はすすんでいた。

そちらに集中しノートを移し終えた。先生は「それじゃあ各自大問3を解いてみて」と言い、次の解説のために黒板を消し始めた。
一通り問題を終えた時、先程から動きを感じない明依が気になり横を見た。
すると小さく寝息を立てて机に突っ伏していた。
口は半開きだけど、閉じられた瞼から生えるまつ毛は形よくカールしていて思わず見入ってしまいそうになる。「こんなん反則やン…」と心の中でつぶやいた。

なにかイタズラしたくなって、明依の机にちいさなハートマークを落書きした。
我ながら気持ち悪いとおもい消そうとした時「じゃあ解答するぞ」と先生が言った声で明依は目を覚ました。

そして、「じゃあ下條。」と明依が指名され明依は焦っている。
「ここやここ」と、ノートに書いてある答えを指さした。
きっと先生は明依が寝ていたことを知ってて指したんだろう。


明依は少し慌ててる。
まだ、この落書きにはきづかない。
オレからキミへの秘密の暗号。




眠る君に秘密の愛を
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