見え隠れする心


「でさ、その時ふうがさ――」

 絶え間なく続くヒナタの話。向かい合って座るヒロは、時折相槌をうちながら手元のカップに視線を落とした。さっきまでは温かかったコーヒーも少し冷めはじめていた。
 もう冬なんだなーとか取り留めのない事を考えながらテーブルに肘をつく。ぼんやりとしながらも、耳を通り抜けていくヒナタの話にはしっかりと応えていた。

「なあ、聞いてんの?」
「ん? 聞いてるよー」

 そろそろ言われるかと思っていたセリフが耳を打ち、ヒロはようやくヒナタへと視線を戻した。じとっとした目でこちらを見つめるヒナタに、にっこりと笑ってみせる。

「ふーちゃんが冷たいって話でしょ? いつものことじゃん」
「違う。それにいつものことでもないからな! ふうはいつでも俺の天使で――」
「はいはい、わかったわかった」

 またヒートアップしていきそうなところを寸前で押しとどめ、ヒロは苦笑した。ちくりと痛んだ胸には気付かないふりをする。ハッと我に返ったヒナタが、小さく咳払いして半ば浮いていた腰を下ろした。

「それはともかく、やっぱり話聞いてねーじゃん」
「聞いてる聞いてる。じゃああれでしょ? またメネちゃんにふーちゃんとられたって話」
「ちがーう! 嫌なこと思い出させんなって!」
「あれー、おっかしいなあ。じゃあ――」
「あーのーなー」

 また別の話を挙げようとしたヒロをヒナタが遮る。身を乗り出してヒロの鼻を思い切り摘んだ。

「いててっ、なにすんだよ」
「そりゃこっちのセリフ。さっきからなんだよ。上の空で変だぞ、お前」
「別に。僕はいつも通りですよーだ」

 ヒナタの手を払いのけてぷいっと横を向く。横目で確認すると、ヒナタは眉尻を下げて何とも情けない顔をしていた。
 それはそうだろう。おかしいのは自分でも自覚していた。
 でも、その理由を言えるわけがない。

(ふーちゃんに妬いてる、なんてさ)

 いつもいつもヒナタの口から出るその名を、その話を聞きたくないと思い始めたのはいつからだったろうか。
 自分でも馬鹿げていると思いながらも、気が付けば自然と耳をふさぎ、その話題を避けるようになっていた。これではもう自覚せざるを得ない。
 けれど、ヒナタを困らせたくないからこの気持ちを伝えるつもりはなかった。
 だから、ヒロは笑う。

「ごめん。冗談。ちょっとぼーっとしてた」

 くるりと振り返って笑顔を見せると、ヒナタは虚をつかれたように瞬いて頭をかいた。

「……そっか。具合でも悪いとか?」
「かなあ。寒くなってきたし風邪でも引いたのかもね」
「大丈夫か? 熱は……なさそうだな」
「っ!」

 ふいに額に触れた手にドキリとする。テーブルに置いた手が震えてカップがカチャリと音を立てた。

「……ばーか」

 俯き、ヒナタに聞こえないように呟いて、ヒロはそっと溜め息をついた。


END

________
和泉様:S*S

ヒロ→ヒナタで二次創作して下さいました!
ジェラシー可愛いですねうおお…!
素敵すぎましたありがとうございます!



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