素直じゃない贈り物


「はあ……何してんだろ、俺」

 整然と並んだ本棚。その間の通路に置かれた脚立の上で、カズキは何度目か知れない溜め息をついた。

『本の整理、頼んだわよ』

 そう言い渡されたのは、放課後、資料室に顔を出してすぐのこと。正確には、扉を開けたその目の前で仁王立ちをしていたカザハにそう宣言された。
 何で俺が、とか言いたいことは山ほどあったけれど、勿論言えるわけがなかった。
 かくして、いつ終わるとも知れない本の整理が始まったのである。

「そもそも誰のせいでこんな……」

 資料を年代順に並べ直しながらブツブツと愚痴をこぼす。けれど、すぐに本棚の向こうから聞こえてきた「うるさいわよ」という声に、それもピタリと止まった。
 また、溜め息がこぼれる。

「……ん?」

 同じ大きさの本が並ぶ中で不自然に飛び出た一冊の本。
 奥に何かあるのだろうか。訝しげにそれを抜き取ったカズキは、本の隙間を覗き込む。
 何か四角いものがあるのが見えた。

「……何だ?」

 取り出してみると、それは誰かへのプレゼントのようだった。茶色い包み紙に緑色のリボン。
 宛名はない。しかし、カズキには心当たりがあった。

「何だよ、カザハの奴――」

 そこで言葉が切れた。よく見ようと上を見上げ、少し後ろの灯りにかざそうとしてのけぞり――バランスを崩した。

「う、わ……!」

 思わず上げた声をかき消す勢いで響いた脚立の倒れる音と、その衝撃に巻き込まれる形で散らばった本。

「ちょっと! どうしたの!?」

 盛大な音に、さすがのカザハも慌ててすっ飛んできた。その眼前にあったのは、床に広がった本の海に沈むようにして、大の字に寝転ぶカズキの姿。

「怪我は――ないみたいね、その様子なら。頭はどうか知らないけど」

 最初こそ心配の色が浮かんでいたものの、すぐにカザハは呆れたように腕を組んだ。彼女が見下ろす先には、茶色の包みを持ち上げながら、ニヤニヤと笑うカズキがいた。

「一応聞いてあげるわ。大丈夫?」
「おう、何とかな」
「そう。ならお茶にするわよ。さっさと準備なさい」

 冷ややかな一瞥をくれ、カザハはさっさと背を向け去っていく。その後ろ姿を見送って、カズキは推測を確信に変えた。
 きっと中身はチョコレートであろう包みの贈り主がカザハでないならば、すぐにそれは何だと問い詰めてきただろう。

「ったく、素直じゃないなぁ」

 くすりと笑って身を起こす。体は多少痛いが、大事はないようだ。

「早くしなさい、愚か者」

 本棚の向こうからひょっこりと顔を出したカザハが睨みつけてくる。

「お茶が済んだら片付けの続きが待ってるのよ。分かってるのかしら?」
「はいはい。分かってますよ」

 勿論、自分で仕事を増やしてしまったことも。
 しかし、もう溜め息は出ない。代わりに緩んでしまった頬を押さえながら、カズキはお茶の準備に取りかかった。


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和泉様:S*S

バレンタインネタで書いて頂きました!
ツンデレですへへ…///美味しく頂きました
可愛くてニヤニヤしっぱなしです!
ありがとうございました〜!

→続編頂きました!



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