07
対決が開始された。
嶺二の曲はそこにいたすべての人を魅了した。しかし、愛音の曲を歌った藍君の技術も素晴らしく完璧な歌だった。結果は50対50。けれど、藍君がざわつく会場に静寂を与えた。




「ボクがレイジに一票入れるよ。」

「愛音…何で。」

「アナタは、ちゃんと目の前にいる人を見た方がいいと思うよ。ボクに誰を重ねてるのか知らないけどさ。」




こうして対決は嶺二の勝利で幕を閉じたのだった。この放送は藍君のデビュー後に放送されるそうだ。




見学を終えた私が先輩に挨拶を済ませてスタジオを出ようとした所を嶺二に呼び止められた。ケータリングが寿弁当だったらしく、嶺二のお母さん特製のからあげ弁当を持っていってほしいと言われて私は嶺二の控室へ招かれた。




「まさか愛音の曲をぶっこんでくるとは…あの曲はめちゃんこいい曲だかんね!」




私が座った横にドカッとダイブするようにソファへなだれ込んだ嶺二。
私の太ももに頬をすり寄せて思いっきりセクハラだ。でもまぁ、嶺二もがんばったし、少し甘える位許してやろうと思った。

愛音の曲は藍君用に少しアレンジが加えられていたけれど、愛音のための曲であることに変わりはなかった。藍君は譜面通り完璧に歌っていただけだ。
けれど、嶺二に一票投じた藍君の顔はとっても清々しく見えた。




「うん、でも藍君がとってもいい顔してたから良かった。」


「…」




嶺二は黙ったまま、私の髪を掴むとそのまま前に引き寄せて首に腕を回した。
バランスを崩してずれ込んだ私に覆い被さる様に体勢を逆転させると、嶺二が首に顔を埋めた。耳にかかった吐息に躰を捩ると、嶺二の大きな手が私の胸を弄った。




「嶺二、ここどこだと思ってるの!」


「どうして最近会ってくれなかったの?仕事が忙しい?それとも、僕の事飽きちゃった?」


「忙しい!っていうか嶺二もでしょ!どいてよ。」





急に何を言い出すのだろうか。馬乗りになったままの嶺二に言い返すと、私の両腕を封じて、空いた手でブラウスのボタンを外しはじめた。




「エッチしよう?」


「だ…だめ。」





胸元を舐めると、ブラジャー越しに突起を摘み始めた。
こんなにも強引に取り押さえられたことがあっただろうか。嶺二が何に怒っているのかわからなかった。怒っているのかもわからない。
顎を掴まれて嶺二の整った顔が近づいて来ると、不意に藍君の顔が頭を過った。
唇が触れる寸前に顔を背けると、嶺二が封じていた腕を解放させて私の頬を撫でた。




「僕じゃダメ?愛音の事を考えてるの?」


「違うって!」


「じゃあ、やっぱりアイアイ?」




“やっぱり”って何なんだ。確かに嶺二に組敷かれている状況で藍君の顔が浮かんだのは間違いないけど。
嶺二が嫌いなわけじゃない。だけど、藍君は私の初めての人なのだ。私が初めて頭から離れない男の子。




「…藍君は関係ないでしょ。」


「カッコイイこと言ったけど、僕はズルい大人だから…ひろちゃんが欲しいよ。アイアイに黙って渡すつもりはないし、今までだってどこかで自分だけのものだって、ひろちゃんは僕の一番の理解者でずっとそばにいてくれるって思ってた。愛音を利用してひろちゃんの心も体も全部欲しくて仕方なかったんだよ。こんな汚い感情でいっぱいなんだ。」




嶺二の告白はあまりにも突然だった。だけど、嶺二の気持ちは愛なのだろうか。だって最初が残酷すぎた。嶺二が愛音を利用するなんてことは有り得ないし、一緒にいて、体を重ねて寂しさを埋めて、情が生まれたのは本当の愛?
嶺二の事は好きだけど、私は嶺二を利用してきた身だ。嶺二をこれから愛していく権利もないし、自信もない。




「藍君は関係ない。けど…ごめん。嶺二の事は好きだし、私も寂しさを埋めるみたいに嶺二を利用するような事してきた。だから嶺二とは恋人同士にはなれない。この関係を拭い去ることはできないし、私も嶺二も進まなくちゃ…一歩でいいから。」


「愛音も、ひろちゃんも傍にいなくなっちゃうなんて辛いんだ。」




嶺二は私を抱きしめた。傍に居なくなるなんてことないのに。ずっと嶺二のそばにいる。ただ、それが恋人としてではなく、大切な仲間としてというだけ。
嶺二の頭を撫でて、「大丈夫だよ。」と言うと、抱しめた腕に力が入って、ゆっくりと嶺二が頷いた。




「レイジ、入るよ…って…ヒロ…?」




急に扉が開いて、そこには藍君が目を見開いて立っていた。
乱れた服、抱き合った2人…ハッとして嶺二から離れて肌蹴た服で前を隠した。




「あ、藍君…」




私が名前を呼ぶと、藍君が私を睨みつけて何も言わずに扉を閉めた。
出ていく藍君を見て、嶺二が髪を掻き上げてため息をついた。




「あーあ、見つかっちゃったね。」


「嶺二、ごめん。私…」


「…」




服を整えて藍君を追いかけようとすると、嶺二が私の腕を掴んだ。




「嶺二!離して!!」


「あきらめの悪い男は嫌われちゃうよね。行って誤解を解いておいで。」


「…うん!」




私が怒鳴ると嶺二は寂しそうに笑った。そして藍君を追いかけるように言ってくれたのだった。



「あーあ、僕は本気だったのに…年下にあっさり持って行かれちゃうんだから僕ってダメな男だよね。」




閉められた扉にポツリと嶺二はつぶやいた。


*********


「藍君、待って!」




長い廊下の角を曲がると、藍君の後ろ姿が見えた。
速足で追いつかない藍君に声を掛けた。藍君は後ろを向いたまま立ち止まったため私は駆け足で藍君の元へと向かった。




「…レイジは?置いてきていいわけ?」


「…藍君…」


「ボクに構わないで続きでもしてくれば?キミとの曲はもうできたんだし、ボクはボクで作業するから。」


「違う。」


「違わないよ!!」






藍君が怒鳴る姿は初めてで、そのまま立ち去ろうとする藍君をこれ以上追いかけることができなかった。
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