06
あれから藍君は先輩の企画した嶺二との対決に臨んだ。テレビデビュー前の美風藍を見たいのか、嶺二のファンなのかスタジオの観客席には女の子がズラリと並んでいた。彼女たちが今日の対決をジャッジする100名だ。

嶺二の隣に居た可愛らしい女の子はきっと今回の作曲家の子であろう。
確かに楽しそうに話しているし、すごく自信に満ちているようだ。私は…どちらを応援しよう。愛音の曲を歌う藍君を応援できるだろうか…あの日キスしたその真意を知らないまま藍君を応援できるだろうか。
そんな事を考えていると嶺二が私に気付いてブンブンと手を振って近づいてきた。




「ひろちゃん!今日は僕の応援よろしくマッチョッチョ〜!」


「テンション高い。」


「高くしないと緊張に押しつぶされそうだからねっ!」




おどけて見せたけど嶺二は本気で緊張しているんだろうと思う。先行は藍君が歌うことになっているし、あの曲を聞いたら嶺二はどう思うだろう。




「あはは、相手は藍君だし、圭先輩だもんね。」


「ねぇ、ひろちゃん、僕の事応援してくれる?そしたら嶺ちゃんめっちゃんこ頑張れちゃうんだけどなぁ〜」


「別に私が居なくてもがんばれるでしょ。あの子もいるし。一人にさせたらかわいそうだよ、新人の子なんでしょ?」




チラリとあの子を見るとおどおどしながら周りを見て挙動不審だ。
私も最初はそうだった。スタジオなんて慣れなくて、有名人もたくさんいるしスタッフの邪魔にならない場所すらよくわからずキョロキョロして戸惑っていた。




「あの子は強い子だよ。ひろちゃんと違って…なぁんて!」


「別に嶺二がいなくても大丈夫だし。」


「うわっ寂しい!!そんな子に育てた覚えはありません!」


「はいはい。」


「酷っ!」


「ふふっ。」




私もこの会場で一番関係者ではないただの見学者だから、嶺二とコントみたいな会話をして少し緊張が解けた気がした。
私が笑うと嶺二も優しく笑って私の頭をポンポンと撫でた。




「そうそう、ひろちゃんは笑っていてよ。」


「…ありがとう。」


「おいおい、イチャつくのは外でやれよお前ら。」





響先輩が台本を丸めて嶺二の頭を小突いた。響先輩が企画した番組はヒットが多く早乙女学園を卒業したあとに転職したのにその才能を発揮していた。演出関係の事に詳しく、魅せ方が上手い。私はそれも学びたくて事務所にお願いして見学させてもらった。




「あーひびきん!今日はよろしくちゃん!」


「全っ然イチャついてませんから。響先輩、今日は見学させていただきますのでよろしくお願いします。」


「えーイチャイチャ…」


「嶺二うるさいっ!っていうかしてないから。」


「ははっお前ら相変わらずだなー。しっかし、嶺二の作曲家は今回予想外に新人なんだな。そんなんで圭と美風藍に勝てると思ってるのか?馬鹿だろ。無謀だって事くらいやる前から気付けよ。」




現場の嶺二はムードメーカーでいつも陽気だからいつもより面倒くさい。纏わりつく嶺二を離すとその光景を見て響先輩が半分呆れたように笑っていた。
響先輩の言葉にやっぱり棘があって言い返そうと思ったら、私より先に女の子の可愛らしい声が響いた。




「あ、あの…!寿先輩は負けません!」


「後輩ちゃん…」


「寿先輩はキラキラしてて、素敵な先輩です。だからそんな人に私の曲じゃ確かに無謀なのかもしれません。だけど、戦う前から負けを認めるような、そんな弱い人じゃありません!私の曲は寿先輩のお陰でキラキラしたものになったんです!絶対負けません!」




嶺二の言うとおり、あの子は強い。ちょっと一緒にいただけで嶺二のいいところをいっぱい知っていて2人の力を信じてる。あの響先輩に言い返す女なんてそんなにいないと思ったけど、なかなかやる子だ。




「嶺二は本当に小動物を手懐けるのが上手いな。あぁでもこっちは獰猛系か。」


「響先輩酷っ!」




私を指さして笑う響先輩。私は猛獣か!




「よし、じゃあ今日は精々盛り上げろよ嶺二。」


「OK〜でも、負けないよーん。」





響先輩がその場を去ると、スタッフに色々指示し始めてお仕事モードだった。




「あの…すみません。」


「いいよ。後輩ちゃんもひろちゃんもありがとね。」


「寿君、今日は正々堂々と戦うんですね。昔の様にまた逃げるのかと思いましたよ。まぁ、片桐君の言うとおり、精々新人の作った曲で僕たちの盛り上げ役になってください。では。」




女の子が申し訳なさそうに謝っていた。普段はおどおどしてるのに、いざという時にはッ度胸のある芯を持った子だ。
嶺二がお礼を言うと今度は圭先輩が厭味な事を言ってその場を去った。圭先輩の後ろには藍君がいた。




「…」


「アイアイ、今日はよろしくね〜。ファンの子もこっち見てるよ。仲良しツーショット見せつけちゃう?」


「ちょっとレイジ暑苦しい!近寄らないでよ!!」




藍君に抱きついて頬ずりしようとすると藍君がめちゃくちゃ嫌そうな顔をして抵抗していた。
いつもあんな感じなのか、あの二人。藍君もそりゃ私に嶺二と仲がいい時点で無理だと言った訳だ。
観客席の女の子たちは嶺二と藍君が揃っているのを見つけるとキャーキャーと騒ぎ出し黄色い声が瞬く間に大きくなっていった。
すると嶺二が「今日はよろしくね〜」と女の子たちに手を振ってアイドルっぽい事をしていた。




「藍君…」


「ヒロも来てたんだね。」




藍君が私に近づくと、突然頭をポンポンと撫でられた。
さっきも嶺二にやられて気恥ずかしかったけれど、藍君が少し笑って頭を撫でるものだから私はドキッとしてあわあわするばかりだった。




「…へ?な、なな…何?藍君?」


「何となく。」


「は?意味わかんないんですけど…」




またふんわりした解答!!!
藍君の行動が最近よくわからない。避けられてるけど、嫌われてるわけでもないし、手をつないだり、キスしたり、頭撫でたり…思春期の男の子だから女の子にそーゆう事したいだけなのかな。でもそれって誰でもいいって事!!?何かショック。…ショック?




「ボクだってわかんないよ。っていうかその百面相気持ち悪いからやめてよ。じゃあまた後でね。」




本当に口悪い藍君。だけど、思ったより自然に笑顔が出ていて良かった。
手を振る藍君に「頑張ってね。また後で。」と返して藍君の背中をずっと眺めっていた。




「へー…」


「嶺二?何?」


「いや?何でもないよ。」




それだけ言うと嶺二もスタジオの中枢へと足を運んで行った。
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