5月23日。晴れ。
授業が終わり、教室にあるピアノを弾いてみる。
私は今アイドルコースだから作曲することはたまにしかないけれど、小さい頃からピアノの音が大好きでよく弾いていた。
私がピアノを弾くと、隣に住むお兄ちゃんがよく一緒に歌ったりしていた。
一人っ子の私にとってお兄ちゃんは王子様で、とっても頼りになる誰よりも一番の存在だった。
しばらくすると誰も居なかった教室から声がした。
「苗字・・・まだ居たのか?」
「・・・」
「何だよその顔は…」
その声のする方を見て、ムゥと頬を膨らませた。
「龍也がよそよそしいから拗ねてみた。」
「拗ねてみた、って・・・お前なぁ、ガキじゃねぇんだぞ。それに、ここは学校だ。俺とお前は今、教師と生徒の関係だ。そーゆうのはしっかり区別付けねぇと逆に面倒だろうが。」
そう。小さい頃から私の大好きで、憧れのお兄ちゃんとは、今や早乙女事務所のアイドル・経営をこなしつつ、学園でアイドルを育成する教師・・・日向龍也だ。
「わかりましたって。先生。」
しばらく他愛ない話をしていたけれど、龍也は何やら仕事をしているようで後ろ向きのまま。
スーツ姿も、かっこいいなぁ… 。
夕暮れの朱が、龍也を照らして、黒いスーツ、金髪に近い髪とのコントラストが綺麗だった。
男の人らしい大きな背中が眩しい。
私はスっと立ち上がり、龍也に近づいた。
「…せーんせっ」
チュ…
きっと私の顔は真っ赤だけど、夕暮れの朱に溶けて気づかれないはず。龍也の唇の横にキスをした。
「名前っ」
「今日は5月23日。キスの日なんだって♪」
それだけ言い残してそのまま教室をあとにした。
あとで龍也に怒られるだろうけど…でも、これからがスタート。
キスの日記念日。