「ねぇ、言ったはずだよね?ここの寮って壁が薄いんだってこと。」
「うん、聞きました」
「じゃあ、さ、何なのこれ。」
「ん?藍ちゃんを押し倒してるの」
そんなことは聞いてないよ。まったく、早乙女事務所ってのはふざけた人間が多すぎる。
僕を押し倒すと言っているこの作曲家苗字名前もその一人だ。
マスターコースの寮で椅子に腰かけていた僕の上に跨りそれを「押し倒す」と言う名前に呆れていた。
「君、馬鹿なの?」
「私はただ、藍ちゃんが私を足蹴にして蔑んでくれたら満足なんです」
蔑む…ねぇ。それが満足だなんて、どんだけ変態でМ性の持ち主なのだろうと思う。
「…それで満足だなんて、君、変態なの?」
「う…ん」
高圧的に、だけど呆れて仕方ないと言う態度で変態と発すると、そのままナマエの顎を掴んでこちらを向かせた。
「じゃあ、いいよ…してあげても。これはデータがないからね、情報収集くらいには役に立つかな」
「ほら、何してるの。踏まれたいんでしょ?早くそこの床に座って」
この高揚したようなうっとりしたナマエの視線を感じて、思考回路が迷子だ。
そのまま床についたナマエの頬を椅子に座ったまま足でグイッと軽く押してみた。
「はぁう…」
「足で顔抑えられてそんな楽しそうな顔しないでよ、変態。」
なんだか気持ちよさそうな表情をしているけど、一体何がいいんだろうか。まったくわからないが、ナマエのその顔を見て嫌な気にはならなかった。
「こら、何勝手に舐めてるのさ。」
ふと見るとナマエが指を舐め始めた。
その辺、細かく作られて精密なんだからやめてほしいよ。
「まったく、やっぱりやめ。…ほら、そこで聞き耳立ててる2人。」
「え?」
ナマエが顔を上げるとドアから那月と翔がでてきた。
「あはは、みつかっちゃいました〜。本当に、名前ちゃんは健気で変態さんですね〜可愛い〜〜〜」
「……俺は別に、聞く気は…ただたまたま…」
どっちにしても最初から最後まできいてたんだよね?まったく、うちの後輩は仕方ないな。
「翔、この変態何とかしておいて。」
「お、俺かよ!!!何で俺が名前の世話までしなくちゃならん!」
「那月じゃナマエ傍に置いておいたら危険でしょ?」
「そ、そりゃそうだけど。」
「先輩命令。じゃ、よろしく。」
そのままうるさい3人を置いて一人出かけようとすると、声を掛けられた。
「あぁ!藍ちゃん!!!」
「何?」
「今度はもっと踏んでね」
・・・・・。本当に理解に苦しむ。
「あのね、ナマエを踏んでも僕にはなんの意味もないよ。無駄なことはしないのが効率的だよ。」
「君の考えることは本当に理解不能だよ。」
そのまま部屋を出て博士のいるラボに出かけていった。
・・・何かいいアップデートがあるか聞いてみようかな。