脱却のタイミング続編
神宮寺にキスされた。
私には彼氏がいて、久しぶりの片思いが実った恋だったから私は浮かれていたっていいはずなのに。神宮寺にキスされて、頭の中がグチャグチャになったのだ。

大好きなあの人も私も芸能人だから気軽に会えるわけではない。だから電話したり、メールしたりといつもはあまり面倒でしないようなこともマメにやってきた。
抱かれた後くらいからだろうか、内容はあまりにも単純明快なものだった。チンコびんびんだよ、とか、マンコ弄ってみてよ。気持ちいいの好きでしょ?、とか最低な内容しかこなくなった。
私が好きだった男はこんなにも低俗だったのだろうか。いつもならばこんなこと送られてきたらすぐに拒否リストに入れて連絡を取らなくなる。けど、あの人は会えば優しく微笑んでくれて、仕事について熱く語ってくれて、その当時仕事で悩んでいた時に手を差し伸べてくれた人なのだ。いつもは大人びているのに、ちょっと少年みたいな瞳とか、笑った顔が好きだった。

神宮寺が私を女として見てくれていて、自分を選べと言ってくれたことは単純に嬉しかった。女にとって男からこんな風に思われるのは幸せなことだと思う。
私の嫌がることを知っているのが彼氏ではなく男友達だったのかと思うととても皮肉だ。付き合っていてもずっと私の片思いのままだったのだなと実感して辛くなった。だけど、それでもあの人を心の底から嫌いになれないダメな女なのだ。
そんな女が愛だ恋だ語りながらアイドルをやっているなんて滑稽すぎて逆に笑えた。


今日は神宮寺と四ノ宮君がやっている料理番組にゲストで出演することになっていた。
控室に挨拶にいくのは礼儀だが、キスしちゃったし、理由も言わずに泣いちゃったし、あのあとも神宮寺は何事もなく帰ってしまって、今日どんな顔して会えばいいのか全くわからずもう帰りたい気持ちでいっぱいだった。
ずっと神宮寺の控室の前で悩んでいると廊下を通るスタッフがどうしたのだろうという目で見てくるから長居はできない。勇気を出してドアをノックすると、中から「どうぞ。」と神宮寺の声がした。


「神宮寺…おはよ。」

「やぁレディ。今日はよろしくね。」

「うん。あの…この前言ってた写真ね、結局送った。」


ドアを開けると神宮寺はいつも通りニコッと笑って中へ手招いた。
あれだけ話をしたのに、結果どうなったか話をしないのも微妙だと思い、彼がせっついて要求した刺激的な写真を送ってみたことを伝えた。もちろん返信は写真の感想なんかではなく、もっともっと!そんなんじゃ足りない、という要望のみであった。その後返信はせず、しばらくしてから「ごめん、仕事でした。」と送ってその場をやり過ごしたことを伝えた。


「…そう。無理なことし続けると疲れちゃうよ?折角の恋なのに、レディが楽しめないなら続ける意味はあるのかい?」

「…うるさい。」

「おっと、言い過ぎたかな。まぁ、レディが続けたいのを無理にやめろとは言わないよ。」


見透かされたようにガツンと言われた私にはただ悪態をつくくらいのことしかできない。
無理してる…楽しめてない…その通りだ。だったら片思いのままで、憧れのままでいれば良かったのかもしれない。

でも、神宮寺があんなことしなければ私の心はもっと穏やかだったはず。神宮寺が私を本気で思ってくれているのがわかってしまったから、私はこの苦痛にも似た恋から愛されているという甘い蜜の元へと逃げてしまいそうだ。神宮寺を本当に男として好きなのか、ただ思われているという状況が幸せなだけなのかわからない。


「…じゃぁ、何でキス…したの。私は、」

「俺は名前が好きだよ。いつからかは覚えてないけど、名前が他の男の話をする度に辛くなって、俺はただ黙って友達って言う状況に甘えて何をしているんだろうって後悔した。けどもう、後悔したくないんだよ。」

「私は…馬鹿だから、神宮寺が優しくしてくれて今まで嬉しかったし、一緒にいると変な気を遣わないでいいし、楽だった。何でも話せて…いい友達だなって思ってた。それに私は彼が…」

「それで構わないよ。でも、俺はズルいから、このまま俺の忠告を無視してボロボロになった名前を傍で大切に大切に見守って、その男を悪者にして名前が俺に縋り付くのを待つのさ。」


神宮寺は少し辛そうな顔で笑った。世の女性が欲しくてたまらないこの男にこんな顔をさせて、さらにはっきり答えを出さないなんて本当に最低な女だな、私は。
でも、神宮寺は優しいから、私の嫌がることをするわけないのは知ってる。


「神宮寺は優しいからそんなことしないでしょ。」

「はは、ありがとう。レディにそう言ってもらえて嬉しいよ。」


神宮寺がポンポンと大きな手で私の頭を撫でた。
この前はじめて男だと思い知らされた大きな手は、また私に優しく触れて私の心をかきみだした。


「…どうしたらいいの。」

「ん?」

「なんでもない。ほら、そろそろスタジオ入りの時間だよ。行こ!」


たぶん、そう遠くない未来、私は選ぶのだろう。
この不毛な恋から脱却しなければならない時がきたのだ。




**************
あとがき
脱却のタイミング続編と言うかヒロイン視点で後日モノ。
どちらを選んだかは読み手次第ですが神宮寺に片寄り気味だったかな?爆
またもしょっぱい話になってしまいましたが神宮寺への愛故です←


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