ピンクレモネードに沈む
画面越しだろうが、ライブ会場で米粒くらい小さかろうが、彼らを見れば皆が虜になった。そして世間は帝ナギを可愛い可愛いと噂する。
だから世間は彼を求め、今やメディアへ引っ張りだこだ。




レイジングエンターテインメント社所属アイドルの私もそこそこ忙しく仕事をさせてもらっている身であるためか、HE★VENSと会う機会は最近では滅多になかった。昔はあんなに一緒に仕事をして楽しかったのに…と画面を見ながら少し寂しくなることもあった。

そんな時、久しぶりに事務所の廊下で見かけたナギは、元々長い手足はどことなしか更にスラリとし、背も伸びているように感じてついついジーっと見つめてしまっていた。
視線に気付いたナギはコチラを見るなり駆け寄って抱きついた。

パッと顔を上げるとやっぱり身長が少し伸びていて、以前とは角度の違う視線にドキリと心臓が跳ねた。ニッコリと天使みたいに笑ったナギはやっぱり可愛い。





「名前ってば、僕のことジ〜〜〜と見つめてたけど、これって視姦ってやつ?ストーカー?最近視線を感じるなーって思ってたけど変態犯人は名前?」




うわーーーー!前言撤回!!!!!!
やっぱこの口が可愛くなかったっっっ!!!

っていうか13歳アイドルが遣っていい単語がほとんどないから。他大人2人…ちゃんと教育にいい環境作ってあげましょうね。





「まったく瑛一の奴…ちゃんと教育しなさいよ。」


「僕と一緒に居るのに他の男の話なんていい度胸じゃない?」





帝ナギ…確かに可愛い。私なんかより絶対可愛いけど、中身を知ってる私にとっては脅威でしかないのだった。こんな大人びた台詞をサラリと言い放つ帝ナギ13歳アイドル恐ろしい。





「そーゆうのがダメだって言ってるの。まだ“宇宙レベルでキュートなアイドル”なんて言ってた方がまだいい。」


「もう!名前ってば可愛くなーい。」


「そりゃナギに比べたら可愛くないですよ。歳も取ってますよーだ。」





我ながら大人気ないと思うけれど、ナギの前ではどうも素直になれない自分がいた。
ぷぅっと頬を膨らませた私を見た不機嫌なナギは、急に私の手を取って応接間のようなところへ入って行った。ジリジリと距離を縮められていく私を無言で制するナギ。





「…」


「な、なに。」


「名前はさー…」





いつの間にか壁際まで追いやられていた私は背中に当った冷たい壁で初めてその事実を知ったのだった。
整った可愛らしいナギは“不機嫌です”と書いてあるくらい不機嫌な顔で私を追いつめた。






「僕の事、いつになったら男として見てくれるの?宇宙レベルに可愛くたって、僕はちゃーんと男の子だよ?」


「…ナギ」






年下の男の子に迫られてこんなにもドキドキしてる私ってやっぱり変態なのだろうか。
ナギの表情は不機嫌ではあるけれどよく見れば少し悲しそうにも映った。





「僕がこれから大人になったらすーっごくキュートでさわやか青年で…周りの女の子が方っておかないんだからねっ。名前なんて見向きもされなくなっちゃうんだからねっ。」


「あーはいはい。」


「もー!ちょっとくらいヤキモチ妬くとかないわけ!?」


「…へ?」





ナギのこーゆう性格は知ってるけど、面と向かってそれ言われる私って何なんですか。
適当に流した私の答えにまた不機嫌さを増したナギの口から出た「ヤキモチ」…もっと意味が分からない。
?の浮かぶ私を見るとナギは「はぁ…鈍感。」とまた暴言を吐いた。





「僕ばっかりズルいよ。アイドルになったって、自分のモノにならない女の子が目の前にいるんだから!」


「…それって」


「あーもう!うるさいっ。僕の特別にしてあげるんだから、黙ってみててよ。」





頬を薄っすら赤らめて、バツの悪そうなナギは視線を逸らした。

何その顔。さっきからドキドキさせすぎ。憎たらしいけどやっぱり私はナギに弱いらしい。

ヤキモチ?…特別?…ナギがそう思ってくれることに私の心はポカポカと熱くなった。
不意にナギのフワフワの髪を撫でると手を掴まれてしまった。




「えっと…ごめん。」





子供扱いみたいで嫌だったのだろうか…反射的に謝ると、ナギは掴んだ手を自分の口元に持っていき手の甲へ唇を落とした。
そしてまた、私を捕えるようなその瞳でニコリと微笑んだ。





「あと、4〜5年したら、その瞳から…脳みそから消えなくなっちゃう位いい男になってるんだから、覚悟しててよね。」







(甘酸っぱい恋の味はもうすぐそこに)



EKN.様に参加させて頂きました。


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