From;名前
嶺二ごめん…今日は撮影が入っちゃって
遅くなりそう!誕生日会に間に合わない
かもしれないけど、必ず会いに行くから
返事はその時にします!!
相変わらず絵文字も少なく飾り気のないメールをする僕の彼女。
待ち望んでいた答えを中々くれずについに誕生日になった。6月半ば頃、僕は大好きな彼女、名前ちゃんに「一緒に住もう」と伝えたのだった。よく考えて返事をしてほしいと伝えてはいたけれど、それからもうそろそろ1か月経ってしまうわけで、もしいい返事がもらえなかったら…と思うと誕生日会どころではなかった。
「はぁ…」
「嶺ちゃん元気ないよー?」
「そ、そんなことないぞ?!音やーん☆」
「どうせ名前さんが来ないからでしょう。私達だと役不足のようですみません。」
「トッキー!発言に棘あって痛いっ!!!嶺ちゃんシクシクッ!」
すでに会場にはいつものメンバーが揃い、賑やかなものになっていた。
音やんとトッキ―が僕を心配してくれているけど、大事な後輩に気を遣わせてしまって申し訳ないなと思った。
すると、入り口に仕事で遅れてきたミューちゃんがやってきた。
「遅くなったな、寿…更に歳を取って苦労だろうがまぁ精々頑張ることだな。」
「バロンは相変わらず素直じゃないね。」
「ふんっ」
「あっはは!ミューちゃんも来てくれてサンキューベリベリマッチョッチョー!!」
相変わらず毒舌なミューちゃん。また人を年寄扱いして!!
だけど皆がこうしてお祝いしに来てくれることが嬉しかった。
「カミュ、名前は一緒じゃないの?」
「あぁ、アヤツはまだグダグダとスタイリストと何やら喋っていたからな。」
「ミューちゃんと名前ちゃん、同じ現場だったんだ。」
アイアイってば情報通。僕も詳しく知らなかった名前ちゃんの仕事内容を知っていた。
ミューちゃんとの撮影か…最近バラエティーの仕事よりモデル業の仕事をしている名前ちゃんとはなかなか現場で会うことは少ない。
「ほら、今日のスタイリストとカメラマンが記念に持って行けとくれたものだ。名前なんぞとこんな写真持っていても仕方がないがよく撮れているだろう?」
「…」
ミューちゃんが僕に見せた写真は衝撃という言葉がピタリと合った。
白いタキシードに身を固めた紳士なミューちゃんの隣には、同じく白くて清楚なウェディングドレス姿の名前ちゃんの姿だった。
「バロン…これはちょっと今のブッキーにはキツイんじゃない?」
「何の話だ。」
周りのみんなが空気を察知してミューちゃんを突っ込んだり、話題を変えて場を盛り上げた。
僕はそんな中落ち込んではダメだと思ってニコニコと取り繕ってはいたけれど、心中穏やかではなかった。
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「嶺二、遅くなってごめんね!お誕生日おめでとう!!」
「…うん。」
「?嶺二、どうしたの?大丈夫?具合悪いの??無理したらダメだからね!!?」
今日は嶺二の誕生日。その日にだけは積極的に仕事を入れないようにしていたが、有名なウェディングドレスのデザイナーさんが私をモデルにと指名してきたためその仕事を受けた。早朝からの撮影で夜には間に合うだろう…
前々から嶺二に一緒に住もうと誘われていたが、驚きすぎて挙動不審になっていると嶺二が気を利かせたのか返事は後日という話になった。
今日はその返事をしようと心に決めていた。
急いでマンションへ向かうと、嶺二の表情は浮かないものだった。具合が悪いのだろうか…折角の誕生日なのに。心配して近寄ると、嶺二が私の手を握って甲へキスを落とした。
「いや、はは…僕って本当にダメな男だよね。こんなにも名前ちゃんは僕を心配してくれるのに、ただの撮影なのに、嫉妬して。」
「撮影…カミュの奴になんか変なこと言われたの?アイツ、何か余計なこと言ったんじゃないでしょうね〜〜〜!全く!!!」
「いや、ミューちゃんはただ一緒に映ってる写真をみせてくれただけだよ。」
「そっか。」
私がウェディングドレス着てはしゃいでたとか、似合いもしないとか散々なこと言っていたのかと勘繰ったがそうではないらしい。
「うん、2人のウエディング写真。ただの撮影なのにさー、ウエディングドレス姿を一番にみたのがミューちゃんで、役だけど相手がミューちゃんで…何かそれに嫉妬しちゃったんだよねー…はは。ごめんね、幻滅した?」
うん、やっぱり。
嶺二って本当に私のこと好きでいてくれてるんだなってすごくわかって嬉しい反面、それで悲しい思いをさせてしまうのは私も辛い。
「あのね、嶺二、私の方が恥ずかしい話…と言うか何というか。今日カミュより遅くなったでしょ?あれね、自分が将来着たいウェディングドレスの話をデザイナーさんとスタイリストさんに語ってたの。その時は是非作りますって言ってたけどね。」
「…名前ちゃん?」
「あはは、馬鹿でしょ?嶺二に一緒に住もうって言われてまだそんな話されてもいないのに一人で舞い上がっちゃって…あーもし嶺二とこのまま上手くいって、結婚式にこんなドレス着れたらなぁって思って今日ずっと仕事してたんだよ。」
「っ!」
嶺二が素直に気持ちをぶつけたのだから、私もちゃんと思っている事を伝えなければいけないと思った。
こんな一人で舞い上がっちゃって勝手に妄想しておバカな女だと思われたくはなかったけど、嶺二の事好きだもん。
伝え終わるとすぐ、嶺二は私の腰を引き寄せ抱きしめた。
ぎゅーっと力いっぱい抱きしめられて戸惑った。
「ちょっ…嶺二??」
「大好き。僕のお嫁さんになってくれるんだ。すっごい嬉しい。めちゃんこ凄い誕生日プレゼント貰っちゃった。」
「えー、プレゼントはこの前欲しがってたブランドのキーケースなんですけど。」
「あ、それも欲しい。」
「あはは」
嶺二の誕生日だというのに、私の方が喜んでばかりだった。嶺二に思いを告げてホッとした私は冗談交じりにプレゼントを渡したのだった。
嶺二、ハ・ピ・バ☆
「ねー名前ちゃん。近い将来、必ず僕からちゃんとプロポーズするから、覚悟しておいてね。」