ご近所事情
マスターコース寮 某日。




ガチャガチャと荒っぽく鍵の開ける音を聞いてすぐにその主がわかった私は玄関に向かう。


「おかえりなさ…ちょっ…何」


おかえりなさいと言う暇も与えられない程のスピードでドアが開いた瞬間抱きしめられて肩口に顔を埋められた。ヌメリとざらついた舌が首筋を伝ってゾクリとする。


「今日のライブも最高にロックだったぜ…」


「興奮覚めやらぬ…ってところか。レンと真斗は?」


そう言えばライブの手伝い兼見学な付き人の後輩2人の姿が見当たらないことに気付いた。折角皆でご飯食べようと思って準備してたのに。


「あぁ、わかってるなら黙って応えろよ。あの2人なら置いて先帰ってきた。」


「痛っ!ちょっと…蘭丸、噛まないでよ!」


獣のように荒っぽい誘い方。舐められた首筋を急に噛付かれて物凄く痛い。本気で私食べられちゃうんじゃないかなって思う。

まったく色気のない野獣のお誘いにイラっとして空いていた脇腹をグーで殴ってみた。
思った以上に威力があったのかくっついて全く離れなかった獣と言う名の大きな子供がやっと離れて脇腹を抑えて此方を睨んでいた。


「ってぇなぁ…なにすんだよクソが。」


「蘭丸のアホ!!!私に欲情するなら大歓迎だけど、ライブのエクスタシーのまま盛られるなんてまっぴら!」


そう。私のイラつきポイントはそこ。
ライブ大好きロック大好き男にそのアホさ加減を言ってやった。

「さぁさぁいい加減にしてご飯食べましょうー」と腕を引っ張って部屋の中に入れようとしたけれど、やはり男の力なのか、腕をひっぱり返されてまたすっぽり腕の中に納められてしまった。


「違ぇよ、お前が作った曲でエクスタシー感じたんだから、これはお前の所為なんだよ。抱きたくて堪らなくて帰ってきたんだから、とっとと名前を寄越しやがれ。」



…撤回。撤回します蘭丸様。

やっぱり大好きなのかもしれない。
野獣が飼い主に甘える子ライオン程度に可愛いランキングを見事ランクアップして、キュンとしてしまった私も音楽馬鹿で蘭丸馬鹿なのかもしれない。



「…あ、ありがとう。嬉しい!いーっぱいあげる!」


玄関口のフローリングに蘭丸を押し倒して抱きついた。チュッとリップ音を立ててキスして、蘭丸を組み敷いた私。


「っ!痛ぇよ!!乗っかんな、俺が今日は喰いたい気分なんだよ。」


「だって私が下になると蘭丸さっきみたいに噛みつくんだもん。痛いから嫌。私は食用じゃないっての。」


「肉好きでも人食家とかそんなマニアックな趣味ねぇし。いいから退け。」


お互いにSにもMにもなれる素晴らしい相性だと、体を重ねれば重ねる程身に染みた。
蘭丸が私に落ちる姿ってゾクゾクするから、なるべくならば私が主導権を握りたい。

だから噛付かれて別に嫌いじゃないけど、痛いのに快楽を感じるかって言われたら感じない。蘭丸に痕を付けられてる快感はあるけれど、なるべく勘弁してもらいたい。


「えー結構マニアックな趣味だと思うよ?噛付き癖。」


「お前のS痴女よりマシだっつーの。」


「きゃ…ちょ…S痴女って酷…ぁ…」


手首を取られてバランスを崩した私は先程蘭丸が組み敷かれていたそこに背中を付けていた。
服や下着と一緒に胸の頂きを唇で挟まれて、大きな手で太ももを撫でられると気持ちよくって声が漏れる。
ニヤリと嬉しそうに笑う蘭丸に、まぁ今日は好きに犯されてもいいかな、なんて観念した。


「ノッてきたか?なぁ、もっといい声出せよ…」


「出すのはどっか他でやってよね。」


「…」


「あああああ藍っ!?え?ちょっと蘭丸鍵閉めなさいよ!」


不意に第三者の声が上から降ってきて、少し体をよじって組み敷いていた蘭丸の後ろのドアを覗いた。

覗いたまではよかったけれど、すごい剣幕で不機嫌であらせられる美風様に思わず息を呑んだ。
いや、やっぱりドアの前に藍がいる。綺麗な顔が怒ると迫力あるっていうけど、これ本当の話。


そう言えばドアが開いた瞬間に襲われたから、鍵がかかっていたかどうかんてわからない。


「鍵とかそーゆう問題じゃなくて、壁薄いから痴話喧嘩丸聞こえ。」


「チッ…」


藍の声がしてからこちらも不機嫌マックスな恋人が発したのは舌打ちのみ…あとで酷くされるのは私なんだろうな…と察せるぐらい色々な思いが含んだ舌打ちなのが伝わった。



「藍!黒崎先輩めちゃくちゃ怒ってんぞ!!だからやめろって言ったのに!!!」


「そうですよ〜2人のラブラブ邪魔したら悪いですよ。」


「お前ら居たなら全力でコイツ止めろよ。」


ひょこっと現れた2人の後輩。いい晒し者である。
蘭丸は翔と那月をギロリと睨んでいた。



「っていうか、ランマルも名前も変態すぎて子供の教育に悪いよ。」


「俺を指すな!一応お前より歳は上だ!!」


「僕の方が先輩だし、身長も高いし、女性経験もある。何か文句ある?」


「…どうせ後輩だし、背まだ伸びねぇし、童貞だよ!!!」


「翔ちゃん大胆発言〜」


「へ〜お姉様が色々教えてあげよっか?」


「「名前っ」」



蘭丸に睨まれてビビっていた翔だったけど、藍の発言にすかさずツッコミを入れていた。可愛いものが好きな私としては可愛い後輩であっておまけに童貞と聞いてしまったからには黙っていられなかった。
ちょーっとからかっただけ(半分以上本気)だったけど、藍と蘭丸2人に物凄い剣幕で突っ込まれたので自重します。



「まだ伸びる予定でいるの?もう無理でしょ」


「翔ちゃんはこのままで十分可愛いですよ?」


「可愛い言うなっ」


人のことは全く持って言えないが、本当にろくなことを言わない藍と那月。翔の大変さ具合が身に染みて切ない。
いつの間にかコント会場と化したマスターコース寮一室の玄関口。
すると、ふわりと体が浮いて、腕をひっぱられたのがわかった。私を断たせるとグイグイひっぱり寝室へ向かう蘭丸。



「お前ら3人コントしてんならとっとと出てけ。俺は今からコイツと忙しいんだよっ」


足蹴りしながら3人をシッシとあしらいながら玄関の外まで追いやった。
私は咄嗟に翔に叫んだ。



「翔っ、もしなら見学してく?」



「黙れ痴女!!」


マスターコース寮の廊下には蘭丸の最後のセリフが反響でかなり遠くまで響いた。


しばらく、寮内では「マスターコース内で誰か男が痴女に襲われたらしい」という噂が絶え間なく飛び交っていたらしい。


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