放課後のレコーディングルーム。
家の命令でアイドルになる俺には縁のない場所だった、彼女と会う様になるまでは。
「ねぇ、レディ…いいのかい?俺とこんなことして。」
「いいよ?だって、レンのこと嫌いじゃないし。」
レコーディング機器を背中にして、椅子に座る俺に跨り誘う名前。
俺の事を嫌いではないというその唇が欲しくて堪らない。彼女を見上げてその唇に腕を伸ばし、親指で摩ると名前は少し頬を紅く染めていた。
「ふーん。でも、聖川が好きなら俺とかかわらない方がいいと思うよ?」
「でも真斗は私の事なんて見てないもの…あの子しか見てない。」
聖川を想って悲しそうな表情をする名前。
俺ならそんな顔させないのに。
聖川を想い俺にすがる名前。
俺にすればいいのに。
「じゃあ諦めるのかい?」
少し期待を込めて言ってみたけれど、「それは…嫌。」と更に悲しそうな顔をして、俺に抱きついてきた。
「まったく、レディは俺の事を困らせるのが上手いね。」
「ごめんね、レン。」
胸に顔を埋めたまま謝る名前の表情は読めないけれど、背中に回された手がギュッと服を掴むのを感じて愛おしくなる。
優しく抱きしめ返すと名前の肩口に自分も顔を埋めた。
「謝るのはナシだよ、レディ。」
きっと顔に出てしまうだろうから、ばれないように見栄を張るので実は精一杯だった。
…
「レンは?好きだって言ってた子に告白しないの?」
「さぁ、それはわからないよ。俺はボスに歯向かってまでリスクを背負うのはごめんだからね。」
「そうなんだ…でも、上手くいくといいね!」
俺は名前が好きだと、言える日が来るのだろうか。
「そうなるといいね」と軽く笑って見せたけど、たぶん、俺の恋は実らない。
前に俺が名前と話しているところを目撃した聖川が言ってたんだ。
『彼女にだけは絶対に手を出すな』って…
…もう少しだけでも俺に名前との時間がありますように。
ごめんねレディ、だけど。
真実に迫らない俺達は同罪かもしれない。
だから…It is not I but you who are to blame…
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It's not I but you who are to blame.(悪いのは君だよ)