15-06
2月14日がバレンタインデーで、日本のバレンタインデーの風習を知った時点で、獄寺隼人が図書室に駆け込んでくることは容易に想像がついた。
獄寺隼人はモテる。
それはこの約1年で骨身にしみてよく理解した。
きっと、バレンタインデーも間違いなく女子生徒に追われるだろう。
匿ってやる義理も正直なところ、ない。
けれどまあなんとなく、直感的に柊は彼を匿うことを決めてしまった。
柊美冬は2月14日、図書室を臨時休館にすることにし、その旨を獄寺隼人に伝えた。獄寺は何のことかわからない、といった風だが、地頭のいい男である、当日になれば意味が分かるだろうと思って特に何かを説明するようなことはしなかった。
せっかく臨時休館にするのであれば、誰もいない図書室で兼ねてからやろうやろうと思っていた看板の取り付けを行おう。
もしかしたら飛び込んできた獄寺隼人はなんだかんだいいながら、手伝ってくれるかもしれないし――
*
目論見はAからZまで大当たりだった。
柊自身の勘が良いことは、前々から彼女自身自負していたが、それも彼の性格を鑑みればすぐにわかることだ。
(あなたは、なんだかんだ優しい人ですよね)
ただちょっと、素直じゃないだけで。
柊美冬は脚立の上でヒートンを取り付ける獄寺隼人の顔をじいっと見つめた。
(ああ、やっぱり、×××××××××××××)
すると、柊の視線に気が付いたらしい獄寺が「見てんじゃねぇよ」と彼女を睨み下ろしてきた。すみません、と言って柊が看板を手渡せば、舌打ちしながらも結局彼はヒートンに看板をひっかけ、なんなら看板が傾かないようにと、きちんと左右のバランスをはかっている。
「よし、こんなもんか」
「獄寺君、几帳面でありがたいです。かけて貰った看板、どれも綺麗です。」
「お前がかけたんじゃ左右ガッタガタになりそうだしな」
「……」
云われもない理由で散々小馬鹿にされて柊が黙り込めば、獄寺は意地悪く笑ってこう言った。
「こんな日にこんなことやってるような色気のない女には、繊細な作業は向いてねーよ」
「うわぁ最低ですね、色気のある女の子たちから逃げ切ってきたのは何処の何方ですか」
「俺の話じゃねーよ、お前の話だバーカ」
それはそれは、平和な昼下がりの出来事だった。
柊美冬はこの他愛無い出来事を、一生忘れることはなかった。
そして獄寺隼人は、彼女と共に過ごしたこの僅かな時間を記憶し、尊び、後に忘却してしまう。
後にも先にも、まつわるのは皮肉ばかり。
『星はすべてを、お見通し』。