01-02


バジルにとって美冬は、姉であり妹であり、幼馴染で同僚である。
家光の弟子として前線で戦うバジルとは対照的に、美冬はCEDEFの経理を一手に担うCEDEFの屋台骨のような存在であった。


CEDEFはボンゴレファミリー有事の際になって表に出る。
そのため、普段からその本部の場所を知る者はそう多くはなく、またCEDEF側も多くのフロント企業を使ってその場所を特定できないように偽装を施している。

その隠れ蓑用のフロント企業を使ってあの手この手で収益を上げ、カネを動かし続けるのが美冬の仕事である。金融、法律、経営、あらゆる分野の知識が必要とされるその仕事を、美冬は幼い頃から続けていた。



幼いバジルが家光に連れられて本部にやって来た時。
既に美冬はCEDEFの経理部でバリバリと働いていた。
彼女は常にパソコンを叩いて数字とにらめっこ状態。
周りの大人と一緒になってCEDEFの帳簿をめくる姿は気難げなもの。

加えて彼女の容姿で一番目立つのは、その橙色の瞳である。
やけにまっすぐな、見たこともないような橙色の透明な瞳は、彼女自身を良くも悪くも目立たせてしまっていた。


幼いながらに近寄りがたさを感じてしまったバジルは、接点が無いのをいいことに、CEDEFに入った後しばらくは美冬と積極的な接触はしなかった。




だが、ある日。

バジルは家光との修練終わりに休憩しようと修練場近くの中庭へ足を運んだ。するとそこにはその日までなんとなく避けていた美冬がいた。
今日は休日らしく、何冊か本を持ち込んでベンチに腰かけていた彼女は、気難しい顔をしてページをめくっていた。


(じゃましないようにしよう)



そう思って、バジルが別の場所に移動しようとした、ちょうどそのとき。
本から顔を上げた美冬の視線がバジルをとらえると、彼女は「待って」と声をかけてきた。


「…あ。」
「けがしてますよ。わたし、絆創膏もってますから、そこにすわってください」



声をかけられてしまっては、その場を離れづらい。
それどころか有無を言わさずベンチの横に腰かけさせられてしまった。

気まずい空気を醸し出すバジルをよそに、美冬は手提げから絆創膏を取り出し、バジルの腕やら膝にぺらりぺらりとそれを貼っていく。


「バジルはすごいですね」
「え?」
「こんなにケガしてでも、毎日親方様と修練をつづけるなんて、わたしにはムリです」



淡々とした口調で、表情を変えることなく、美冬はそう告げた。
率直すぎる感想に、バジルは驚きながらも「それを言うなら、美冬だってそうですよ。拙者はあんなにパソコンのまえにいられません」と笑って答える。
その言葉に「そうでしょうか?」と美冬は真顔のまま首を傾げた。


「えーと、こういうとき日本語ではてきざい……」
「適材適所、ですか?」
「そう、それです!拙者も美冬も適材適所ではたらいてるから、ちょうどいいんですよ」



バジルがにっこり笑うと、それもそうですね、と美冬も納得したように頷く。
幼い橙と蒼の視線は絡まって、互いの瞳がふわりと細められた。
それまで、美冬が笑うところを見たことがなかったバジルは、少し驚いたような顔をしたのちに、それはそれは嬉しそうに、にこりと笑った。



以降二人は急速に距離を縮めていく。

そもそもCEDEFという組織の中には同年代の職員はお互い以外におらず、バジルと美冬は、家光の弟子と経理職員――立場こそ違えどCEDEFの中でお互いを励まし合ってきた。


いつも気難しそうな顔をしている、と思っていたが、本人曰く「集中しているとああなる」そうで、美冬自身は至ってのんびりと仕事をしているつもりらしいということも、後になって知った。




「二人は本当に仲良しね」
「はい!美冬がピンチの時は、拙者が美冬を守ります!」
「で、そんなバジルが先程破壊した修練所の壁は私がやりくりしてこっそり直しておきます」


いつだったか、二人があまりにも仲が良かったのでオレガノがからかえば、バジルは元気に答え、美冬はそんなバジルを横目にそうさらりと述べた。
その日は単独修行中にバジルが力加減を誤って修練場の壁に大穴を開けてしまった日。
バジルは美冬に謝り倒してこっそりと壁の修繕を終えたのである。

また、最近はフロント企業への襲撃が多いことから、銀行回りなどで美冬が本部の外に出る際はバジルが同行してボディーガードを引き受けたり。

二人は互いに足りない部分を補い合いながら、このマフィアの世界を生きてきた。
いつも傍に居て以心伝心している様子に、周囲はまるで双子のようだと二人を評してきた。



が。





「はぁ……」


バジルはこれまでのことを思い出して、ため息を吐いた。

応接室から飛び出してきたバジルがやって来たのは、中庭のベンチ。

美冬とバジルが初めて邂逅した、思い出の場所である。


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