12-04


ディーノの鼻腔をレディ・グレイの香りがくすぐっていく。
いつからか彼女はディーノが現れると自然とその紅茶を淹れてくれるようになったし、香りを楽しみながらお喋りをするのが彼らの習慣だ。

一足先にタルトを食べ終わったディーノは悠々とカップを傾ける。


「そういえば、綱吉君はどうでしたか?」
「まだまだヒヨッコだけど、アイツは良いボスになりそうだよ」
「…そうですか」

美冬の問いに、ディーノが答えると、彼女もまた短く返事をしながらカップを傾ける。その態度は素っ気無いようだが、よくよく考えれば彼女が他人に言及することなど滅多にない。

……どうやらこの妹分は、綱吉のことを大層気に入っているご様子だ。



「なんだ、美冬もツナのこと気に入ったのか」
「そ、そりゃ、仕事でずっと監視と報告してますから…多少は感情移入もします」
「ホントに多少かあ?それ」


ディーノがニヤリと笑って指摘すれば、彼女の耳の端がさっと赤くなる。
どうやら、多少、ではないとみた。彼女は昔から表情のパターンは乏しいが、何かの拍子に頬ではなく耳の端を染める。嬉しい時、恥ずかしい時…表情に変化が無くても、耳を視れば何を考えてるかは一目瞭然なのだ。


「まぁ、リボーンに任せときゃ大丈夫だろ。俺だって今じゃあ、キャバッローネのボスやれてんだし」
「確かにそうですね」


さらりと肯定した美冬におい、とディーノがかみつくも、美冬はどこ吹く風だ。一方、昔から美冬のことをお嬢、と呼ぶロマーリオは、美冬の顔を不思議そうに覗き込んで言った。


「そういやお嬢、噂通りコンタクトしてるんだな?」
「はい。あのままでは目立ちますから。」
「確かになぁ。お嬢の目は珍しいから目立って厄介だろうな」


確かに隠した方がいい、とロマーリオが言うと、美冬もこくりと頷く。今でこそ制服を着たままの彼女の瞳は焦げ茶色の日本人らしい色をしているが、本来ならば目の醒めるような美しい橙色だ。ディーノはちょっと勿体無いな、と思うが、それでは目立って潜入にならないだろう。

何せ、彼女の仕事は目立たないように並盛に溶け込みながら、沢田綱吉を監視することなのだから。


それにしたって不審な点はある。

例えば、なぜ彼女なのか、という点。CEDEFには優秀な構成員が山ほどいるのだ。別に事務員の彼女じゃなくても、良かったはずだ。

そして、あれだけ彼女を外に出さなかったのに、何故このタイミングで並盛に出したのか。元々CEDEFに居た頃から、キャバッローネファミリーの中でも彼女とやり取りが許されているのはディーノとロマーリオ、そして残り数名のごく限られたメンバーである。そして彼女は忙しさのあまり学校にも通わず、日々仕事漬けの日々を送ってきた、文字通り匣入り娘。外部との接触は意図的に遮断されていたに等しい。

沢田家光は、一体何を考えているのだろうか。





「……ディーノさん?」「どうした?ボス」
「え」

考え事をしていたディーノは、愛らしい妹分と頼りになる部下に顔を覗き込まれてはっと顔を上げる。二人はじっとディーノの顔を見た後、互いの顔を見つめてぷっとふきだした。


「ほらやっぱり」「だな」
「ん?なんだ楽しそうだな、俺にも教えてくれよ」


珍しく彼女が楽しそうなのでディーノがなんだなんだと身を寄せると、美冬は「ディーノさんは考え事していると口が開くんですよ」とにやりと笑って指摘した。


「な、何ぃ!?」「俺は気づかなかったんだが、今はお口あんぐりだったぜボス」


ディーノはかあっと頬を染めて「兄貴分をからかうんじゃない!」と美冬の頭をわしわしと乱暴に撫でた。やめてください、と逃げる彼女とぷんすこ怒りながら追いかけるディーノで、部屋はしばしドタバタと賑やかだった。


「下の階に迷惑だからなー。あんまり走るんじゃねーぞー」


ロマーリオはそう言って走り回る二人を見つめて、カップに残っていた最後の一滴を飲み干した。


prev next top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -