23-03




綱吉、山本、獄寺、そして雲雀が戦闘するにあたり、死ぬ気弾を撃ち込んだリボーンが、獄寺が放ったダイナマイトではない爆発音を聞いたのは、戦闘も終盤に差し掛かった頃である。

ドォン!という破裂音と違い、ボフン!というどこか気の抜けたおとは、10年バズーカ特有の発砲音である。ランボ自体は戦場から少し離れたところにいたはずだったが、念のため様子を見に行った、その先で事件は起こっていた。


(……なんだ?)


使用済みと思われる10年バズーカを見つけたリボーンは、付近にランボがいないか捜索する。すると、あっさりと黒髪のもじゃもじゃを見つけたのだが、彼は何者かと対峙していたのである。

綱吉が戦っているチンピラの残党なら(たとえランボでも)任せて大丈夫だろうと楽観していたリボーンは、大丈夫そうだな、とすぐにその場を離れて現場を離れようとした。


が、チンピラが人質として少女をまえていたのが、問題だった。


(美冬…)


ち、とリボーンは小さく舌打ちをする。
美冬に何かがあっては、色々とよくない。ランボに任せず、リボーンは確実に美冬を救出するべく行動を始めた。

木に登り、気配を消しながら出来るだけ近くに寄っていく。
最初は声も聞こえなかったが、やがて、ランボの声がリボーンにも届いてきた。



「俺達の“星”をまえようなんて、愚かなのもいいところだ」



艶やかなテノールが、言の葉を紡ぐ。
すると、美冬の身体がくたりと男の腕の中で力を失った。ずるりと少女の身体が崩れ落ちて、男がバランスを崩して隙が生まれる。その瞬間、リボーンは樹上から飛び降りて、男の首めがけて蹴りをかました。




「死ね」




たった二文字の殺意は、見事に男の首にひっとし、男はそのまま草の上に倒れ込んだ。



「んがっ!!」
「チッ。仕留め損ねたか」
「わ、美冬さん!」



男が泡を吹いて倒れるのと、リボーンが音もなく着地するのは同時だった。
ランボは見計らったかのように、男から解放された美冬をキャッチし、ぎゅう、と抱きしめる。
殺意を隠す気0のリボーンを呆れたように見下ろすランボは、はぁ、とため息を吐く。


「いや、ここで仕留めたら面倒でしょ、色々と…」
「これだけで済んで良かったと思ってもらわなきゃな」
「うわ…怖…」


10年は人を成長させる。
あのランボでさえ、まともなことを言うようになったものだ、とリボーンが元から丸い目を更に丸くすると、ランボは照れたようにこう言った。


「美冬さんが、そういうの嫌がるし」
「……」

ランボはそうっと美冬を草むらの上に横たえて、心配そうに彼女を見つめた。
リボーンは傍に寄って怪我がないか、深刻な状態ではないか検分をするが、特に異常は見つからなかったため、ランボはほうっと一息ついた。


「命には別条なさそうだ。雲雀にでも渡しておいてやれ」
「ええ〜嫌だなぁ。10年前とはいえ、あの人超怖いんだけど」
「つべこべ言うな。この状況で美冬を安心して預けるなら、雲雀が適任だ」
「ちぇーっ」


ぶう、と頬を膨らませたランボなど全く意に介せず、リボーンは声をワントーン落として呟いた。


「未来じゃ、美冬が“星”だってことはオメーにまで割れてんだな」
「俺どころか、みんな知ってるよ」


ランボは美冬の身体をそうっと横抱きにして、再び抱え直した。
膝の裏と肩を抱く手に自然と力がこもるのを、リボーンは見逃さなかった。



「美冬さんは、いつだって、誰の手にも届かない、キラキラ光るお星さまだもんね」



すり、と美冬に頬をすり寄せるランボに、リボーンは帽子を目深に被り直して呟いた。


「そりゃあさぞ、未来は地獄絵図だろうな」
「……うるさい」


くるり、と踵を返したリボーンは、そのまま森に向かって歩き出した。


「え、ちょ」
「美冬を頼むぞアホ牛。俺はハルと京子を迎えに行かなきゃならねえからな。死んでも守れよ」
「……わかってるよ」


森の中に消えていくリボーンを見送ったランボは、己もまた、ほぼ終息しつつある戦場に足を踏み入れた。腕の中の重みがまるで宝物か何かのように、それはそれは大事そうに抱えながら。



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