23-02


夜の森は薄暗い。
何処へ向かうべきかわからなくなりそうなものだが、柊の足は自然とある方向へ進んでいた。

「わああ」「ぎゃあ!」といった解りやすい悲鳴に、ドカバキという破壊音、更にはドォン!という爆発音や音に伴う光。この先で、乱闘が繰り広げられているのが嫌という程、わかる。(ついでに、そこにいるメンツもだいたい想像できる)


進んで行った先、茂みが途切れ、視界が開けると、そこには死屍累々、浴び驚嘆の世界が繰り広げられていた。案の定、そこには沢田綱吉、獄寺隼人、山本武……そして、雲雀恭弥が大量の不良たちと戦っている。


(やっぱり)


雲雀も、あの場に落ちていた小銭を見て、彼らがひったくり犯の一味だと気が付いたのだろう。ここで沢田達と共に共闘する羽目になったのは彼にとって不運かもしれないが、沢田達には心強いことだろう。
数は明らかに相手の方が多いが、4人の勢いはすさまじく、相手の数は減り、屍の山がどんどん積み上がっていくのは明らかだった。機動力と俊敏性のある雲雀恭弥は、確実に一匹一匹を仕留めていく。山本は刀を振り(あくまであれは山本のバットというスタンスの代物らしいので)、刀身の重さで殴り倒していく。あの二人の一撃は、重い。


「ううん、エグイですね」


見れば見るほど(山本に至っては素人のはずなのに)、二人の動きは戦闘慣れしているのは明らかで、自分の幼馴染の戦闘狂と戦ったらイイ線行くのでは、なんて思ってしまう。



獄寺隼人はドォン!という派手な音と共に、大勢の男を吹っ飛ばしていく。ダイナマイトで誰彼構わず吹っ飛ばしていくスタイルは、まるで誰彼構わず喧嘩をふっかけて行く彼のスタイルそのものだ。


「派手だなぁ…」


ドォン!ボフン!という音は離れたところにいる柊の近くでも聞こえるので、うっかりしていたら巻き込まれかねない。



そして、その横で戦うのは―――


「沢田綱吉…」


死ぬ気弾を打たれて、パンツ1丁になっているが、次々と男たちを殴り倒していく姿は、なんとも逞しい。広範囲に攻撃を仕掛ける獄寺の背中を守りながら戦う綱吉に、柊は笑みが漏れた。


思えば。
昨年春、柊美冬が観察し始めたばかりの頃、彼には友達なんていなかった。ダメツナと罵られてばかりいた彼が、今では獄寺隼人の背中を守り、友人と一緒に戦えるまでに成長した。

ずっと見てきた。だからこそ、感慨深い。



「……なんだか、私まで嬉しいですよ。綱吉君。」



呟きと共に自ずと笑みがこぼれた時である。



「ぐっ!?」


柊は背後から男に捕まった。がっちりと腕で首を圧迫され、全く身動きが取れなくなる。ぎりぎりと必死の思いで男の顔を見上げれば、それは先程京子の肩を抱いていた男だった。
ただ、顔はボコボコに晴れ、見るも無残な姿である。

「てめ、さっきの雲雀の連れだな!?」
「……っ」

連れと言うには語弊がある。だが、息もまともに出来ない柊には口答えをする余裕はなかった。絶対に相手に屈してはいけないという気持ちだけが、柊を奮い立たせる。ぎり、と睨み返せば男は柊にも負けないような憎しみの目を彼女に注いだ。

「さっきから、口と目だけは立派だな」
「……」
「その強気の顔が歪むのを、他の奴等にも見て貰おうぜ」
「?……、ぐ、」

首に回った腕を払いのけようともがくが、その腕はますます締まるばかりである。ずるずると戦場に引き摺られそうになった柊は、やっぱり、いつものことだが、己の非力を呪った。



「うら若きレディを戦場に駆り出そうなんて、野暮なことはやめておけ」




背後から聞こえたテノールに、男は怯み振り向いた。必然的に柊の身体もぐるりと茂みの方に向くことになるのだが、茂みの中から出てきた麗しいテノールの持ち主に、柊は驚きの余り目を見開いた。


天然パーマの頭に、牛柄のシャツ。すらりとした手足と、緑色の垂れ目。
声と同じく悩まし気に方目を瞑る姿から、無駄に色気を感じてしまう。


(…まさか)


それは、柊も数度だけ、遠目に見たことのある男だった。
はたと、彼女は先程近くで聞こえたボフン、という音は、10年バズーカの音だったことに気が付いた。そう、目の前の男は、10年バズーカで未来からやって来たランボ、その人だった。


ふわあ、と男には全く興味なさげなランボだったが、ちらりとこちらを見て「え」と口を開ける。ぱちぱちと目を瞑っては開き、ごしごしと目をこすった彼は、わあっと嬉しそうな声を上げた。


「あ…あれ?あれ?もしかして若かりし頃の美冬さん!?」
「!?」
「わ〜〜やっぱりそうだ!こんなところでお会いできるなんて奇遇ですね!」


ランボは嬉しそうだが、柊も、そして彼女を捕らえている男もぽかんとするのみ。
一目見て彼女を“美冬”と看破した、ということは、10年後の未来で、彼は随分と彼女の近くにいる、ということになる。

柊の戸惑いを余所に、ランボは場違いなほどにこにこデレデレしながらこちらを見つめていた。


「うわあ、10年前の美冬さんってかわいいなあ。俺、10年前には結局会えず仕舞いだったからなぁ。いいよな若きボンゴレ達は…俺も美冬さんといっしょにスクールライフとか送ってみたかった」


それは完全なる独り言である。本人が持つアダルトな雰囲気はどこへやら、へにゃへにゃ笑ったり拗ねたり、表情はころころ変わっていく。三つ子の魂百までとはよく言ったもので、現在と未来で変わっている部分はそんなにないのかもしれない。

なんて考えていたら、呆然としていた男がはっとして柊の首を再び締めた。


「てめぇ、さっきから何訳の分からないこと言ってやがる…!?アイツらの仲間か!」
「う…っ」


それこそ喋る余裕が無いから口にはしないが、内心「そりゃそうだ」と男に同意した柊。だが、存外に男の力は強く、目尻に涙が滲み始めた。
酸素不足でいよいよ意識がもうろうとし始めた、その時だ。




ランボは、すう、と目を細めて薄笑いを浮かべた。





「……その人に手なんか出してみろ」


「ああ!?」


「オレ達の”星”を捕まえようなんて、愚かもいいところだ」







ぐらり、と傾く意識の中で、ランボの言葉が脳に溶けていく。


(星…?なんのこと…?)


力が抜けて、視界が真っ暗になっていく。

くた、と腕の中にいた柊が気を失ったことを察した男が「使えねぇ」と舌打ちをした時だった。





「死ね」





たった2文字の純粋な殺意。

男は振り返る暇も、何が起こったのかを把握する暇なく、その場に崩れ落ちるはめになる。

「あぶな…!」

崩れ落ち行く男の腕から解放された美冬の身体は、踊るかのようにひらりと宙を踊る。その身体をがしりと抱きとめたのは、ランボだった。





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