02-01


その町の名前は、並盛町という。



本日、4月2日。
引っ越しの準備がひと段落した美冬は、自室の業務用パソコンで沢田綱吉のデータを見ながらひとりため息を吐いて、パソコンから窓の外へと視線を移した。
窓の外・眼下に広がるのは、並盛町の町並み。

彼女が引っ越してきたのは、並盛町でも一二を争う高級マンションの最上階だった。

美冬が潜入するのは並盛中学校。
丁度明日は始業式で、美冬は県外からの編入生という形で2年A組に潜入することになっていた。各種書類は既にCEDEFから提出済みで、このたび潜入のために「柊美冬」という偽名まで作成した。



「我ながら手の込んだ潜入になったなぁ…」



ティーカップ片手に沢田綱吉の資料、2年A組のクラスメートの資料にざっと目を通した美冬は、お次に並盛中の各種部活動や委員会活動に目を通す。そこには放送委員会、図書委員会、生活委員会、美化委員会、風紀委員会……これまでCEDEFでの生活が長かった美冬には何のためにあるのかよく解らない、全く未知の組織名が並んでいた。


「…風紀委員会なんて、何のためにあるんだろう?日本独特なのかな?」



これまで、バジル以外の同年代とろくに話したことは、一度たりとてない。
そんな美冬が、日本の学校のルールもよくわからないままに同年代の男女と日々一緒に過ごしながら沢田綱吉を監視し続けるのだ。ずっと部屋に籠ってパソコンとにらめっこの日々とは大違いである。

バジルにはいいだけ啖呵を切ってきたが、彼の言う通り「本当に一般人の同年代の中に入ってやって行けるのだろうか」については、正直美冬自身も心配だった。



だが、ここまできたら、やるしかない。



2年A組の中に入って、一般生徒を演じながら沢田綱吉を監視するのが美冬の仕事である。
与えられた任務に忠実に、が美冬のCEDEFにおけるモットーである。


明後日は、入学式。
ターゲットである沢田綱吉は、新入生として並盛中に入学してくることになっている。


「さて、どうしたものかしら…」



美冬は眼下の町並みを見下ろしながら、一人呟いた。






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