02-02


「はじめまして。柊美冬です。どうぞよろしくお願いします。」



潜入初日のホームルーム。
いかにも普通の中学生女子です、と言わんばかりに、クラスメートの前でお辞儀をする。
お辞儀をしたときに、並盛中の濃紺のスカートと赤のリボンがひらりと舞った。

長年イタリアに住んでいたとはいえ、柊の両親は日本人である。
よっと、柊美冬の容姿は一般的な日本人のそれであった。
ハニーブラウンの柔らかな髪色と、別に高くも低くもない鼻。
ちょっと特異な橙色の瞳は、カラーコンタクトで隠してしまえば全く目立つことはない。


クラスは大してざわめき立つこともなく、あっさりと柊を受け入れた。
この時点で、潜入はほぼ成功したと言っても過言ではない。
これがバジルだったらこうはいかなかっただろう。
イタリアからやってきた上に、ひときわ目立つ容姿と爽やかな蒼い瞳。
まず間違いなく女子の黄色い悲鳴が上がっていたに違いない。


(うーん、やっぱり私が来て正解でしたね)


柊がそんなことを考えていると、担任教師が柊の肩を叩く。

「じゃあ、柊はあそこの席に座ってくれ」
「わかりました」

指定された席は一番奥の、窓側の席。
通学鞄を手に持ち、クラスメートたちの席の間をすり抜けて、自席に到着すると、柊は隣の席を見てぎょっとした。
始業式のホームルーム早々、男子生徒は机に突っ伏していびきをかいている。

ぐがぁ、ぐごぉ、とまったく遠慮のない男子生徒のつむじを見つめて固まっていた柊に、前の席の女子生徒がこう言った。

「ああ、笹川君いつものことだから気にしないで〜」
「え…いつもですか?」
「そうそう、いっつもなの」

苦笑いする女子生徒に、柊は困惑しながら自席に着いた。
担任教師は笹川の居眠りに気づいていないのか、それとも放置を決め込んでいるのか、新学期のスケジュールの説明をしていた。

いびきのうるさい隣の男子生徒はひとまず放っておいて、柊は窓の外を見た。
グラウンドや通学路が見渡せるその場所は、監視任務にはもってこいの席だった。


(これはラッキーですね…!)


授業中の綱吉を監視するために柊自身が授業をサボるのは、あまりに目立ってしょうがないので、授業中の監視は諦めていたが、これなら体育の時間の監視は出来そうである。
柊が内心喜んでいると、突然隣から「うぉぉぉぉ!?」と雄たけびがあがる。


驚いた柊が隣を見ると、隣の男子生徒も驚いたような顔をしてこちらを見ていた。



「お前!いつの間に俺の横に来た!!ていうか誰だ!?まさか刺客か!?」
「何に狙われてるんですか貴方」



思わずツッコんでしまった柊にたじろぐこともなく、男子生徒は大音量で続けた。



「その俊敏さ、気配の消し方……!お前にはボクシングの才能がある!よし、ボクシング部に入」「入りません」



柊は男子生徒の言葉を先取りし、真顔でシャットダウンした。

二人のやり取りに、教室中が固まった。



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