オーナーによろしくと伝えてくれというようなことを言ってジュラキュールさんは帰って行った。勿論テーブルでお支払いして、だ。いまだに慣れないけど、ファミレスにふさわしくない値段を普通のレジで出されるよりいいとは思う。だって云万円……人によっては十万普通に超えるとか怖いよこの店。絶対あっちのメニュー自分で食べれない。大人になってもあのシステムあったら自分で来てみようかな……ご褒美とかで……いやでも無理かな……。
 そんなふうに現実逃避しながらも休憩まであと三十分を切った頃になってようやく客足が落ち着いてきた。この調子ならしっかり休憩に行けそうだ。テーブルを拭いていたら来店の音楽。誰も入り口に向かっていないようだったので、背筋を伸ばし気合いを入れ直してから向かう……がその気合いはあまり意味のないものだった。


「いらっしゃ……お前らか」

「おいおれらは客だぜ、そんな顔してんじゃねーよ」

「来てやったぞ、社畜ー!」

「イード、お疲れ」

「本当……キラーだけだよな、おれを労わってくれんのは」


 こんな微妙な時間に現れたのは大学の友人たちだった。キッドの客発言とボニーの社畜発現のせいで笑顔が消えかけたがまだおれは仕事中、すぐに笑顔を作り直した。空いてればどこでもいいと言い出したので、禁煙席の端っこに案内してやった。予約席の一番近くで静かだということと、煙をなるべく吸わない方がいいであろうキッドのためだ。いやーおれってやーさーしーいー。けどキッドとボニーはおれに優しくない。メニューの端から端まで食いたい者を片っ端から頼み始めたこいつらが本当に悪魔に見えた。今おれ疲れがピークで腹もすげー減ってんだけどなあ? ひどくね?
 とは言っても客の注文を聞かないホール担当はいないので、きちんと注文を聞いて厨房へ戻る。厨房で注文を読み上げたら阿鼻叫喚という感じだった。なんかごめん。ついでにおれの注文もあいつらのテーブルの注文に混ぜておいた。どうせ休憩時間まではいるだろうし座らせてもらおうという魂胆である。
 仕事中なので友人たちに構っている暇はなく、掃除をしたり、使い終わった後の食器を運んだり、会計をしたりしていると、ばちりとキッドと目があった。


「な、なんだよ」

「なんでもねーよ。つーか注文こねーぞ」

「なんでもなくねーじゃん……」


 確実になんか見られてたよ。恥ずかしい。友達がバイト先に来た時の気分って実際微妙だよね。いや、別にいいんだけどさ、ここで知り合ってから学校にいたっていう繋がりだし。厨房に戻りキッドたちのテーブルの確認を取ると、着実に料理が出来上がっていた。しかしホールの人間がなかなか戻ってこずに運べていなかったようだ。料理を持って戻ると、いまにもよだれを垂らしそうなボニーがいた。


「ほら、これお前だろ」

「おう! つーかそれとそれもアタシだ」

「こんな高カロリーで脂っこいもんお前に決まってんだろ」

「うるせェなキッド!」

「ボニー、あんまり大きな声を出すと出禁になるぞ」


 キラーが言ったことは前におれがボニーに伝えたことでもあるので、はっとしたようにボニーは口をつぐみ、目の前の食事だけに集中し始めた。食ってるときと寝てるときしか黙ってられないんだろうな、こいつ……。一度厨房に戻ってキッドとキラーの食事を持ってくると、キラーからは「ありがとう」という言葉をいただいた。キッドは「ん」と言って受け取り、手を合わせてから食い始めた。……いただきますとかすんだよなあ、この外見なのに。なんだろ、ギャップ萌えとか狙ってんのかね、こいつ。あまりにもおれが見すぎたせいか、キッドは胡乱なものを見るような目でおれを見てくる。


「なんだよ」

「いや……べつに」

「お前仕事のしすぎでおかしくなってんじゃねェのか?」

「いや、まだ平気。本番は夜だから」

「ほんふぁんふぁよふっへふぇほひ」

「ボニー口にものが入ったまま喋るな、汚いぞ」


 キラーマジ母ちゃん! と思ったところで他のお客さんに呼ばれた。踵を返し客のもとへ向かおうとすると、ガッと腕をつかまれる。勢いが良かったのでルッチさんに顔面をつかまれたことを思い出してゾッとしたが、今回はキッドなので問題はない。本当にあれは怖かった。
 何かと思えば「イード、休憩、このあとか?」と聞かれたので頷くと、「休憩中こっち座れよ」と言ってくれる。元々そのつもりだったというとても自己中な考えを持っていた事は黙っておくことにして、礼を言って客の元へ向かう。あと十分。そしたら友人たちと楽しいお食事タイムだ。よっし、頑張れる!


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