「うおー、疲れた腹減ったー」


 そんなふうに言いながら既に出来上がった飯を持って席に行くと、キッドから的確な「お前、初めからここで食う気だったんじゃねェか」という言葉をいただいてしまった。実際その通りなのだが「何を言っているんだいキッドくん。おれにはきみが何を言ってるのかわからんよ」とふざけた言葉を返しながらキッドを右手で押して自分のスペースを確保した。やべーまじ腹減った。ボニーの暴力的な食事シーンを目にしても気持ち悪くならないくらいお腹すいた。


「イード、何か飲むか?」

「あー、じゃあコーラ」

「わかった」


 キラーが自分の飲み物を取るついでに持ってきてくれるらしい。本当にカーチャンのようなキラーに「ありがとー」とお礼を言いながら持ってきたオムライスを食う。あー、さすがオーナーのお眼鏡にかかっただけのことはある。美味しいわー。むしゃむしゃと食っているとキッドが箸を止めて、じっとおれのことを見てきた。見られながらはやっぱ食いづらい。


「……なに? オムライス食いたい?」


 オムライスの乗ったスプーンを顔の前に持っていったら、キッドは少しぎょっとしたような顔をしておれの手を退けた。それからちょっぴり睨みを利かせて「ちげェよ、ほら」と伝票を見せつけてくる。おれが打った伝票だ、間違いはない。そしてキッドは伝票のドリンクバーの部分をとんとんと叩きながら「四つ、だな?」と言った。要するにおれがはなっからここで休むつもりだったという証拠を見つけてしまったらしい。いやんおれってば図々しい。細かいことが気になるらしいキッドがまた何か言おうとして開いた口に持っていたスプーンを突っ込んだ。


「んぐっ!」

「ほら、オムライス美味しいだろ」


 これ以上何かを言われて頭の疲れを促進させたくなくてそうしたのは正解だったようで、キッドは一瞬すごい怒ったような顔になったあと、諦めたようにおれの手を引かせる。キッドの赤い唇から銀色のスプーンが出てくるのを見ていたら、がしゃん、と食器のぶつかる音がしてそちらに視線が向かう。ボニーがスプーンを皿の上に置いて、ぶっさいくな表情を作ってこっちを見ていた。


「どうしたボニー」

「いちゃいちゃしてんじゃねェよ」

「どこがいちゃいちゃだよ。意味わかんねー」


 なあキッド、と同意を得ようとしたらキッドは顔面を手で覆って俯いていた。なんだいきなり。意味が分からなくて「具合悪いのか?」と聞いたら首を横に振った。じゃあなんなんだ。思ってから五秒ほどしてキッドは手を外して顔を上げた。ほんのりと顔が赤くなってるのは多分怒っていたからだろう。なんだいちゃいちゃって! とでっけー声で怒りそうになったのを抑えたのだ。偉いぞキッド! そんなことをしようものならマジでオーナーに追い出されるからなあ……今はオーナーここにいないから平気だろうけど。


「うるせェぞバカ女」

「ほらー、キッドだって怒ってんだろ」

「うっわイード、にぶ……引く」

「はあ? 勝手に引くなよ」


 勝手に引かれたことに腹を立てながらもオムライスを食う作業に戻る。やっぱおいしい。ボニーとキッドがこっちを見てきたので、「食うか?」と聞いたらなんか知らんがボニーに怒られた。「お前のなんか食うわけねェだろ!」とか拾い食いでもしそうなボニーに言われたらめっちゃ傷つくんですけど……なに、おれは病原菌か何かか? 落ち込んでいると隣からため息。振り向くとキッドが手を出して「ほら、寄越せ」と言ってくれた。キッド優しすぎわろた。なのでスプーンを突き出してあーんをしてやったらすぱんと頭を叩かれた。痛い。


「アホなことやってんじゃねェよ」

「え〜おれは真剣なのにぃ! キッドの馬鹿っ、あたしのことは遊びだったのねっ」

「おいマジで気持ち悪ィからやめろ! 飯まずくなんだろ!」

「いっで! おいボニー力入れすぎだっつの! あー……いてーよ……」


 そうやっておれが頭を抱えていると「何やってるんだ?」とコーラとコーヒーを持ってきたキラーが首を傾げて戻ってきた。コーラを渡して座ったキラーにキッドはおれが馬鹿をやったことを説明するものだから、店の中ではやめようなというお前はカーチャンかと言いたくなるような注意をやんわりと受けてしまった。なんか一方的におれが悪いみたいな感じになってないかこれ。おれが悪いのも間違いではないので反論できず、むしゃくしゃしたからキッドの肉を横から奪っておいた。また怒られた。つらい。


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