寒い日だって言うのに、ボニーに相談があると言って公園に呼び出した。二人で会うようなことはほとんどなかったが、ボニーは快く応じてくれる。おれはお詫び、というか、お礼にコンビニの肉まんとピザまんを五個ずつ用意していたので、ボニーのテンションはやや高めだった。
 二人でブランコに座ると、ボニーはさっそく肉まんから手をつけていた。ものすごい勢いで肉まんがなくなっていく。喉の奥に流れ込んでいく様はいっそ面白い。


「それで? 相談ってのはなんなんだ?」


 ボニーは肉まんを頬張りながら、おれにそうやって聞いてくれる。おれから切り出しづらかったので、ありがたいと言えばありがたいのだが……。言いづらいことを口に出すのは、やっぱり躊躇われる。でも言わないわけにもいかなかった。こんな寒い中にボニーを呼び出したりして、なんでもないですじゃさすがにあんまりだろう。「こんなことボニーに相談するのどうかと思うんだけどさ、」とあらかじめ前置きをした上で、口ごもりながらもはっきりと言った。


「……おれ、キッドのこと好きかもしんない」


 言ってしまった。黙り込んだ空気がいたたまれなくて、ちらりとボニーのことを見る。すると、ボニーは驚いていたようだったが、すぐに口の中の肉まんを飲み込んで、「リア充爆発しろ」と言った。何言ってんだこいつ。おれがきっとを好きだと言っただけで、キッドがおれのことを好きなわけではない。だからリア充などと言われるのは遺憾である!
 しかしボニーはそんなことよりも、という感じで、「じゃあさっさと告白でもなんでもしろよ」となげやりだ。気持ちが悪いだのなんだのと否定されなかったのは嬉しいが、それはいくらなんでも急すぎる。第一おれは好きかどうか確定しているわけではない。寧ろ話を聞いて欲しいだけなのかもしれない。そう思ったら自然と口をついて言葉が漏れた。


「いやでも男じゃん? キッド男じゃん? おれも男じゃん? ありえねえじゃん。例えどんなにキッドのギャップがおれの好みどストライクだったとしても、例えどんなにキッドがおれの世話焼いてくれたとしても、例えどんなにキッドがいいやつでも男だぜ? どういうことなの? 気の迷いにしちゃやばくね? 恋愛感情かもって考えちゃったこと自体おかしいよね? なんなのこれ? あのキッドが可愛いとかどうなってゲフッ! いてェ!」


 一度話し始めたら口が止まらなくなって頭を抱え始めていたら、思いっきり横っ面をぶっ叩かれた。超いてェ! ていうか何よりびっくりした。いや、ぐちぐち言ったおれが悪いことはわかってるんだけど、まさか顔面を叩かれるなんて思う? 思わないだろ? おれが叩かれたところを押さえながら、半分涙目でボニーのことをじっと見るともう一発拳骨をお見舞いされた。


「うるせェ! さっさと告ってこいってんだよッ!」

「ボニーさん男らしすぎ。惚れるわ」

「アホか! テメェはキッドの野郎に惚れてんだろうが! バカなこと言ってねェでさっさと行けよ、こんののーたりん!」


 おれのふざけたような言葉に、ボニーはキツくも正しい意見をぶつけてくる。まったくもって正しいので、反論のしようもないのである。……おれ、もしかして相談する人間違えたか? でも男同士ってのを男に相談するのははばかられるしな……恋愛ごとならサンジが分かってそうだけど、年下に頼るってのもなかなか恥ずかしいことだし……。横から告白しろと煽ってくるボニーはどうにかならんものか。急にそんな話になるなんて誰が思うんだよ。


「いやでも待って、確実にフラレるよね? 男だよ? おれもキッドも男だよ?」

「だああああああ! めんどくせェやつだな! ちょっと待ってろ!」


 ボニーは叫んでから勢い良く立ち上がると、むしゃむしゃと肉まんを口の中に突っ込んだ。最早やけ食いの域である。それからケータイを取り出し、イライラしながらぴぴぴと電話をかけ始めた。え、もしかして、いやいやまさかね? そんなことしないよね? 嫌な予感が頭を過ぎる。この電話の相手が、あいつでないことを祈ることしかできない。そしてやっぱり自分の考えが正しかったと思い知らされるのである。


「……キッドか? 今イードといんだけど、ああ!? うるせェな! 今からかわんだよ!」


 うわあああああこいつキッドに電話してやがる! これってあれだろ、いまここで電話で告白しろって話なんだろ!? アホか! こいつアホか! 誰が今ここで電話したからって告白すんだよ! マジで意味がわかんねェ! いや、よかれと思ってやってくれてんだろうけど!


「オライード! さっさと話せッ!」


 若干キレ気味にボニーはおれにケータイを押し付けてくる。正直、ちょっと待てとか無理だとか言う前に押し付けられて、なおかつ恐ろしい目で見てくるものだからこれは断れないと電話に出るだけは出ようと覚悟を決めた。おそるおそるケータイを顔に近づけて、声を出す。


「あー……キッド?」

『……なんだよ』


 確実にキッドですやばいやばいやばいこの状況やばい。おれ昨日会ったばっかだから! さっきもラインしてたから! このあとなんかあんのって聞かれてちょっと用事あるって言っちゃったから!
 つーかすげェ機嫌悪い声出してるし、明らかに告白できる雰囲気じゃない。無理だ。もともと無理だと思っていたけど、これホント無理。だからおれが何もないって言うのは悪いことなんかじゃないのです。


「え? いや、別に? なんもな、」


 い、と言葉を続けようとしたら思いっきり蹴りを食らった。「痛ェ!」。ボニーを見ると般若のような顔をして、ピザまんを貪っている。いや、食うか蹴るかどっちかにしろよ。電話の奥で『イード? どうした?』とキッドが心配してくれる声がする。……きゅん。いや! きゅんじゃねェよ! アホかおれは!
 そうこう思っている間にピザまんを食い終えたボニーはおれの脛を蹴り始めた。しかも一発や二発じゃないし、的確におれの脛を狙ってくるもんだから、ついでかい声が出てしまった。


「痛ェって! やめろボニー痛い痛い!」

「うるせェな! さっさと言っちまえってんだよ!」

「お前馬鹿か!? こんな状況で言えるわけねェだろ!」

「あァ!? なんだ、こっちが悪いってのか!?」

「いやそうは言ってな、ってだから痛ェ! やめろ!」


 脛を何度も蹴り続けるボニーのせいで足がじんじんしてきた。女の靴ってマジ凶悪……。おれがボニーの足を抑えようと手を伸ばしたら、ボニーはそれよりも早くおれの手からケータイを回収して話し始めた。……あれ、今から来いとか言ってない? え? ちょっと待ってもらえないだろうか。
 おれがぷるぷると震えながら手をさまよわせていると、ボニーはいきおいよく電源ボタンを押して通話を終えた。それからぎらりとおれを睨み上げる。


「いいか? 呼び出してやったからあとはテメェでなんとかしろ」

「えっ」

「えっ、じゃねェんだよ! タマついてんのかテメェ!」

「ついてるっつーの!」


 あっ、反論するとこそこじゃなかった。けれどボニーは一応満足したようで、ひとつ頷いて「だったら頑張れ。じゃーな、今度飯おごれよ」と公園から去っていってしまった。……マジか。おれ、ここで待つのか。キッドが来るのを、じっと? うおおおお……耐えらんねェ……。けれどこの場を辞退しようものなら友情にヒビが入るとか、そんな問題じゃなくて、二度と告白とかできないと……思う。
 息を整えて、キッドのことを待つ。見上げた空で妙に星が輝いていて、なんだか奇跡でも起きるような気がしてきた。好きだと言ったら、嫌われてしまうかもしれない。気持ち悪いと離れていかれてしまうかもしれない。だったらこのまま、友達のままでいればいいんじゃないかって、思わないわけじゃない。


「イード!」

「うおッ!? び、びっくりした……キッド、早くね?」


 まだ心の準備、微妙にできてないんですけど……。でも息を荒らげているキッドを見たら、文句を言うのもおかしい気がする。ボニーの家からもキッドの家からも近場だからわざわざ走ってきてくれたのだろう。「どうした? 何された」なんてちょっと怖い顔で聞いてくるもんだから、なんていうか、本当におれのことを心配してくれてるんだと嬉しくなった。


「ん、応援されただけ」

「は? 応援……?」

「おう、いきなりで悪いんだけどさ、ちょっとおれの話聞いてくれるか?」


 わけがわからない、という顔をするキッドを、正面から見る。どっからどう見ても男。ガタイだっていいし、身長だってある。顔だって怖い。女の子っぽさがあるのなら、好きだという感情はなんとなく理解できたけれど、やっぱりもってキッドのことを好きになるだなんておかしいと思う。
 でも、そんな状況なのに、やっぱ好きみたいだ。だからこれは、嘘だとか冗談だとか、気の迷いではないのだと、思う。「キッド」と改めて名前を呼ぶ。キッドはすこし困惑したような雰囲気で「なんだよ」とおれをまっすぐに見る。まごつく唇を開いて、ゆっくり、震える声を出した。


「……おれ、お前が、好きなんだ」


聞こえた?


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