軽くシャワーを浴びてからすぐさま指定されていた飯屋に行き、パウリーたちに合流、そして食事をおごってもらったが、ロブ・ルッチは機嫌が悪くカクは妙に機嫌がいいというなんとも空気の悪い中での食事だった。それについておれがどうのこうの思うことはないが、パウリーはさぞかし気まずかったのだろう。ロブ・ルッチとカクを放置し、やたらおれに話しかけてきていた。そんな空気の悪い食事会を終え、おれは宿へ、パウリーたちは仕事場に戻った。
 しかし部屋に戻ったところでいまだ昼過ぎである。特にすることもないし、もしかしたら忙しい時間かもしれないが、あるいはと思って、フランキーさんに連絡することにした。電伝虫が音を吐き出す。しばらくしてガチャと通話がつながった音がした。


『こちらフランキー。一体おれに電話してくるのはどこのどいつだァ?』

「先日お世話になりました、ガルムです。今お時間ありますでしょうか?」

『オゥ、おめェか! いやいや、昨日世話になったのはおれの方だぜ』


 はじめは不機嫌そうな声を出していたが、相手がおれだとわかるとすぐさま明るい声に変わった。わかりやすいチンピラのような態度を取る人だが、根はおそらくいい人なのだろう、と改めて思う。
 話が広がりそうな空気ではあったが、おれが暇だということがわかると、今から合流しろという話になった。真っ昼間だというのに、飲み会をしているらしい。そんな生活がこの世にあるのか……すさまじく不健全である。しかしおれがとやかく言うことではないので、とりあえずフランキーさんのところへ合流することに決めた。

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 向かった先では既に盛り上がっているフランキーさんたちの姿があった。おれが入らないほうがいいのでは、と思うほどの盛り上がりであったのだが、おれを見つけて呼んでくれた。とてもいい人たちである……が、すさまじく酒臭い。酒に弱いというわけではないので吐き気はしないが、至近距離だと鼻がやられそうだった。
 招き入れられた宴会場の中で、飲み比べをさせられたり、妹分たちと結婚しないかと冗談を振られたり、一発芸を見せてもらったりしていたらあっという間に時間が過ぎていった。普段友人たちと飲むときにはない華やかな雰囲気だったが、こういうものもいいと思えた。
 しかしまあ、人数が多いというのも考え物だ。飲み潰れた人間の数は、非常に多い。転がった人間の介抱をしていると、何かが飛んできた。それをキャッチしてみたら──酒瓶だった。振り返る。死屍累々と酔いつぶれた人間の中、唯一まともに活動している男がにやっと笑った。


「そいつらのことはほっといて大丈夫だぜ、慣れてるからよォ」

「慣れているんですか? 身体に悪いと思いますが……」

「ハッハッハッ! 違いねェな! だけど人間、自分のしたいことしなきゃつまんねェだろ?」


 フランキーさんは間違ったことは言っていない。「こっち来いよ、まだ飲めんだろ?」。その誘いに乗って、介抱している手を止め、フランキーさんの方へと向かう。ソファに座っているフランキーさんから少し離れた場所に腰を下ろそうとすると、もうすこしこっちへ来いとばかりに手招きをされた。
 失礼してもう一つのソファへ座ると、フランキーさんは満足そうに笑んで酒を呷った。この人はかなり酒が強いようだ。皮膚の強度が人間のものではなかったし、身体に何かしらの改造を施している人なのかもしれない。


「おめェ、酒に強いんだなァ」

「そうですね」

「酔ってるようには見えねェし、もしかしてワクってやつか?」

「いえ、自分も酔うことはありますよ。酔うときは友人たちの中で一番初めに酔って、迷惑をかけることもあります」

「アウッそりゃァすげェ友達だな! 鋼鉄の肝臓でも持ってやがんのか?」


 カラカラと笑うフランキーさんは、自分の言ったことが面白かったようで笑い声を次第に大きくしていった。ひとしきり笑ったあとは、他愛もない話をしてくれる。昨日のやつはどうだったとか、そんなことだ。
 うんうん、とおれが頷いて話を聞いていると、気を使ってくれたのか「おめェは何か話したいことはねェのか?」と実にストレートな話の振り方をしてくれた。普段だったら特にありませんと、あなたのお話を聞かせてくださいと言葉を返したところだろうが、提案されて、ほんの少し、聞いてみたいと思うことがあった。


「実は仕事のやりすぎで部下を潰してしまって、今、休暇をもらっているんです」

「オゥ……そりゃあまずいな。昨日今日の付き合いだがガルム、おめェは明らかに部下の方が似合ってるタイプだし、わからねェでもねェがな」


 あまり人に話すような明るい話ではないのに、フランキーさんには聞いてもらいたいと思った。アイスバーグさんがそうであるように、フランキーさんも上に立つ人間だからだろうか。うまく自分の組織を回せている人間だから、もっと簡単にいえば、いい兄貴分だから。答えをくれるのではないかと期待しているのかもしれない。
 ダメなことだとしながらも、仕方ないとばかりに笑みを作るフランキーさんは優しい。「自分もそう思います」と言葉を返せば、なんとも言いづらそうな顔をして、フランキーさんは「でもよ、」とおれの話に答えを打ち出そうとしてくれた。


「お前の上のやつは、お前が上に立つにふさわしい何かがあるってんで、部下をつけたんだろ? だったらその期待に応えなきゃあ、男じゃねェ」


 そう言ってフランキーさんはニッと歯を見せて笑った。妙に、心に響くような気がした。もしかしたら、昨日のアイスバーグさんも、こういうことが言いたかったのかもしれない。「ありがとうございます。なんだか分かった気がします」と頭を下げて言えば、いやいやとフランキーさんは謙遜した。おそらく礼を言われ慣れていないのだろう。
 おれが頭を下げて礼を言った雰囲気が苦手なのか、フランキーさんは空気を変えようと「休暇なんだろ? 故郷があるならリフレッシュに帰ってみたらどうだ?」なんてアイスバーグさんと同じことを言ってくるものだから、思わず笑ってしまった。ウォーターセブンの住人というのは皆そういう感性を持っているのかもしれない。
 途端、フランキーさんが驚いた顔をした。何事かと思って「どうかなさいましたか」と尋ねると、まだ驚いたような顔をしながらもフランキーさんはぽつりとつぶやいた。


「……お前、笑えんだな」

「? 表情筋は生きてますが……?」


 何を言っているんだろうか、この人。


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