ハレンチ。そうやってパウリーが叫ぶとき、それは大抵相手側に非がないことが多い。露出の多い服をきていたり、イチャイチャとしながら歩いていたり、そんなことで叫んでどうするんだと思うようなレベルから大声で、とても恥ずかしそうに叫ぶのである。だからパウリーが叫ぶとき、大抵相手側が被害者だと思うのだが……今回ばかりはパウリーの意見に賛成だった。
 だって、えろいのだ。服を脱いだ身体は、簡単に言えば出来上がっていて、服を着ていたときとは比べ物にならないくらい男を感じる。身体を滴り落ちていく水も関係しているのかもしれないが、なんにせよ、ガルムという男には男さえ惹きつける何かがあった。もしも自分が女だったら抱かれたいと素直に思ってアタックしたことだろう。実際のところは男なのでそこまではいかないものの、しかしそういう戯れをしてみてもいいと思ってしまうほど、ガルムという男の肉体は魅力的だった。
 しかしどうやら本人はそれを自覚していないようで、わずかに困惑したような気配を感じさせながら、パウリーがぎっちりと握っているワイシャツを返してくれと手を差し出した。


「服、返してくれるか」

「え、あ、ああ……」


 濡れたままであるというのに服を羽織ったガルムは、それはそれはいい男であると印象づけた。かちりと服を着ていたのに、今はすこしばかりだらしない。それが色気を助長して、これでは女も男も放っておかないことだろうに苦笑いさえこぼれそうだった。
 するとふと、ガルムの腕に醜い火傷の痕を見つけた。肉が引きつったような少し爛れた皮膚は、何故か妙にガルムの魅力を引き立ているような気がする。完璧なものではダメなのだ、とばかりに芸術家が傷を付けたようですらある。ワシの視線に気がついたのか、ガルムは自分の腕に目線を落として納得したように一つ頷いた。


「これですか」

「うわっ! なんだその傷……やけどか? 何したらそんなんなるんだよ」


 衝撃的な傷跡を見て意識が戻ってきたのか、パウリーは顔を歪めてみせる。まるで自分が傷を負ったかのような痛ましい顔、と言ってもいい。軽くルッチの方に視線を向けてみれば、初めて知ったのか眉間にシワが寄っている。自分の知らないことがあるというのが許せないのだろう──きっと何も知らないだろうに。
 可哀想になあ、とからかってやりたくなる気持ちは、パウリーの疑問に答えたガルムの声により吹き飛んだ。


「遺体を解体すると掴まれるな」

「……は?」


 ……遺体? 解体? なにやら物騒な単語が聞こえてきて、空気がぴしりと固まった。たしかにじっと見ればその火傷は人間の手のひらのような形をしている。ただし、普通の人間よりも幾分も大きなサイズではあるが。
 パウリーはそれを脅かしと判断したようで「なんだよ、怪談話か!? やめろよ、寝られなくなんだろ!」とガルムの話を中断させた。ガルムもそれをイエスともノーとも答えずに、一度シャワーを浴びて着替えてから向かうと行って宿の方へ戻っていった。

 三人で歩きながらも脳内にちらつくのはガルムの火傷の痕である。もしガルムの言っていることが本当だったとしたら。遺体を解体していたガルムが、彼の上司である赤犬に腕を掴まれた、ということになるのではないだろうか。火拳と接触したという話は聞かないし……おそらくガルムの話が本当ならば赤犬がやったということになるのは間違いないだろう。
 だが、そんな大事になりそうな話、ついぞ聞いたことはない。その場にいたのが二人だけにしたって治療した人間もいることだろう。いくら赤犬の部下の口が固くとも、話がまったく広まらないのはおかしいのではないだろうか。……どういうことだ? 第一、赤犬の能力を考えれば、あんなちょっとした火傷程度で済むとも思えない。ただ熱くなるなんて可愛らしいものではないのだ。掴まれれば切断も止む無し、そういう能力だ。
 もしやルッチならば知っているだろうか、と視線を向けたが、やはり知らないのかどこか不機嫌そうですらあった。この不機嫌さはワシにだからわかるというものではなく、誰にでもわかるものだ。要するに、それほどルッチは不機嫌だということ。


「ぶは、」

「うおっ、なんだよカク、いきなり笑い出したりして!」

「いや、なんでもないんじゃ。気にするな」


 気になることはいろいろある。けれど、まあ、ルッチが面白いからなんでもいいか。


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