なんてふてェ野郎だ、とパウリーはヤガラレースの会場で少しばかり怒っていた。思いっきり賭け事で外したということより、同じ境遇の男にゴミを押し付けられたことがパウリーの怒る原因となっていた。
 人というものは見かけに寄らない。ゴミを押し付けてきた青年は謂わば好青年というようなキチッとした服を着て綺麗な顔をした男で、まるでギャンブルなどしそうにもなかった。無表情でため息をついていたので外したことは明らかだったし、見ない顔だから優しくしてやろうと思ったのに親切を仇で返すとは。

 ぐちゃりと握り潰し、パウリーはさっさと捨ててさっさと帰ろうと思った。思ったのだけれど、未練がましく潰したヤガラ券を開いて、最後にもう一度確認することにした。もしかしたら本当に当たってるかもしれねェ。しかし開いたところでそこにあるのは何度も確認した、まったく関係のない数字だけだ。
 ため息をついてから失礼な男の方を確認する。三連単のヤガラ券だった。素人がそんなもんに手ェ出すから負けんだよ、と思ったところで、バッと顔をあげる。結果の書かれた掲示板と見比べて、変な声を上げそうになった。


「!!!」


 あの失礼な青年の渡して来たものは、当たりのヤガラ券だった。──三連単、大当たりのヤガラ券! いくらつぎ込んだかは知らないが、百ベリーだったとしても一万ベリーになる金の種だ。あの男、どうやら当たりだと気が付かず、外れたと勘違いして渡してきたらしい。ゴミ箱扱いした罰だぞ、バカめ!
 そう思いパウリーは意気揚々と換金所に行き、ヤガラ券を出した。受け付けにいた女性は初め不思議そうな顔をしていたが、ヤガラ券を見るなり分かりやすく眉間にシワを寄せる。


「……パウリーさん。これ、パウリーさんのヤガラ券じゃないですよね、まさかとは思いますが……」

「は!? ……いや、盗ったとかじゃねェよ!?」


 まさか自分のではないことがこんなに簡単にバレるだなんて、と内心焦ったが、よく考えればパウリーは有名人でここの常連だ。バレるのも無理はなかった。そもそもこんなふうに三連単を当てたことも一度だってないわけで、従業員からしてみれば怪しさ満点。ついに借金で首が回らなくなって犯罪に手を出したと思われても仕方なかった。じとりと疑うような視線を向けられて、パウリーは素直に話すことにした。
 見かけない男を励まそうとしたらくれた、という至極簡単な話だ。信じてもらうために、見目の綺麗な青年の顔立ちやらもしっかり説明した。窃盗犯と疑われたら金をもらうどころかパウリーは職と信頼を失ってしまう。しばらくパウリーの話を聞いていた受付の女性は、険しい顔をして問題のヤガラ券を突き出した。


「……これを買っていった方はおひとりですし、たしかにパウリーさんの言った特徴と一致してます」

「だろ!? だからほら、もらったんだって!」


 疑いが晴れて本当によかった、と思ったのも束の間、バッとヤガラ券はいつの間にか受け付けの女性の後ろにいたお偉いさんに渡されてしまう。おれの! おれのなのに!
 涙目になりながらパウリーが手を伸ばしても、お偉いさんは首を横に振るだけだった。元来パウリーのものではなかったとしても、既にもらったものだ。こんなことは許されない。受付の女性はパウリーの前に指を突き出して、「いいですか」と話を続けた。


「原則として買ったご本人様にしかお支払しておりません。しかもこのヤガラ券を購入された方は、十回賭けられてすべて当てていらっしゃる上、この三連単、五十万ベリーも賭けていらっしゃいます」

「ご、ごじゅ!?」


 全部当てていることも勿論すごかったが、五十万ベリーもの大金を三連単につぎ込んでいたことに驚きが隠せなかった。五十万の三連単ヤガラ券は、五千万ベリーとなって返ってくる。もしパウリーの手に渡れば借金取りに全て支払っても手元に大金が残ることになる額だ。そうすれば借金をすることもなく、ギャンブルもできるし、多少の贅沢だって許されるだろう。


「そうです。なので、もし本当にパウリーさんが貰ったと言うのなら、ご本人様をお連れくださいませ!」


 けれど人生はそう甘くない。パウリーのもとに大金が入るということは、ヤガラレース側は大金を支払わなければならないということだ。すなわち今の受付の女性の本音は、払いたくないから無理難題を押し付けてやる! ということになる。相手は旅行者、下手したら明日には帰ってしまう可能性だってある。しかしせっかく大金を手に入れるチャンスを目の前にしてパウリーが諦められるわけもなかった。


「連れてきたらぜってェ払えよッ!」


 ビシッとお偉いさんと受付の女性を指差したあと、パウリーは走り出した。場合によってはまだ近くにいる可能性だってある。絶対見つけてやる! おれの明日のために!


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