結論から言おう。ギャンブルなんてものはクソが付くほどつまらない。見ればどのヤガラが勝つかなんて簡単にわかってしまうのになんでギャンブルなんて形式を取っているのか、まったくもってわからない。だからそれはこのヤガラレースというものがつまらないということであって他のギャンブルならば面白いのかもしれないが、おれの中ではギャンブルという言葉が持っていた輝きは既に失われている。
 これでは金を増やすだけの作業だ。金策に走っているというのなら別だが、元々金に困っているわけでもないどころか、使う機会のないおれにとって金は既に分相応を超えて有り余っていると言ってもいい。ここでまた金が増えたところで持て余すだけだった。
 だが、おれの手の中には今まで勝った分の金を全部突っ込んだヤガラ券がある。しかも一位から三位までを固定させて当てるものだ。いわゆる三連単と呼ばれるものである。これが外れればプラスマイナスゼロになり、時間もしっかり潰せたし、全く問題ない。もし当たってしまうとオッズの関係から云千万になってしまうが、そんな端金はいらないため捨ててしまえばいいかと思っている。


「当たれ〜……! 当たらねェとやべェぞ……!」


 おれの冷めきった態度とは反対に、隣にいる人はこれ以上にないくらい真剣な顔をして祈っていた。しかし彼の握っている券をさきほど勝手に確認したが、どうしようもなく当たらないと思う。おそらくビリになるだろうヤガラの番号だったのだ。どうしてそいつを選んだ。そもそも当てる気がないんじゃないかと変な勘ぐりをしてしまうくらいである。彼は真剣にあれを選んだんだよな……? 疑わしいけれど、こんなに切羽詰った空気を出す人がそんな変なことをすることはない、と思う。世の中には変なやつが多いから、実際どうかわからないのだが。
 そうこうしている間にレースは始まった。おれの賭けたやつらはスタートダッシュが思うようにいかなかったようだ。そのまま残れ、頑張るな、本気を出すな、とネガティブな応援……というよりは最早呪いに近い念波を送っていたというのに、結局のところおれが予想していた通りになった。……云千万になってしまったようだ。


「うあああああ……! やべェ、やべェ……!」


 隣の人は盛大に外したから頭を抱えて呻いている。やはり本気で狙っていたようだった。いくら突っ込んだかは知らないが、大外れだったことには変わりない。彼には一銭も戻ってこないのだ。
 当たって落ち込むおれと外れて落ち込む彼。誰から見ても二人とも外れているように見えるだろう。しかしまあ、ずっとここで落ち込んでいたって仕方ない。ため息をついた。さっさとゴミ箱にこいつを捨てて、本屋に寄ってから宿屋に帰ろう。本でも読んでいた方がよほど有意義だ。


「兄ちゃんも外したのか? おれもだよ……あー! どうすっかな明日から! やべェよ本当!」


 立ち上がろうとしたら勝手にぴーちくぱーちく言い始めた隣の男を、思わずおれは見つめてしまった。やばいと言いながら笑っているとはずいぶん変わった人だ。むしろどうしようもなくなったからあんな笑い方になってしまったのだろうか。なんだか哀れだ。よほど生活に困窮しているのだろうか? そう思ったときに、おれの手の中には大金引換券があった。その券を差し出せば男の眉間に皺が寄せられる。


「どうぞ」

「あ? はずれのヤガラ券なんていらねェよ」

「そう言わず、受け取ってください。いらなければ捨ててくださっても構いませんから、それじゃあ」

「な、こら! 人をゴミ箱扱いすんなテメェ!」


 ゴミ箱だなんて失礼な、と思ったが、どうせあれをゴミ箱に捨てるつもりだったのだからあの男をゴミ箱としているようなものかと納得した。彼の言い分は実に正しい。
 おれは納得したところで、怒っている男を尻目に背を向けて歩き出す。あの券をどうするのもあの男次第ということにしておこう。捨てようとも構わないし、捨てる前に気が付いて自分のものにしても構わない。彼がもし気が付かないのであれば、破産で済まず人生が破綻するくらい運のない人だと思う。
 本屋の位置はまだ確認していなかったが、よく考えたらもう夜なのだからこの時間には開いていない可能性もある。時間を潰すものは欲しかったが、一日くらいは我慢しよう。さて……このあとはどうするか。宿屋に戻って寝るのも悪くはないが、どうせ夜のうちに目が覚めるだろうし、探索がてら散歩でもしてから戻ることにしよう。

 たしか飯屋の店長に勧められた店の中にブルーノがどうたらという店名があったはずだ。ただブルーノという言葉には聞き覚えがあった。それもCP9のメンバーの一人だ。別に珍しい名前ではないし、まさかとは思うが一応確認してみるのもいいだろう。徒歩で裏町をうろついていると、ブルーノの名を冠する酒場を見つけた。


「……あそこか」


 顔を合わせたことはないと言っても向こうがおれを知っている可能性もないわけではないので、任務ならば直接会わない方がいいだろう。任務として入っている人間に迷惑をかけるつもりは、一応ない。政府に海軍がとやかく言われる隙を作ることになれば迷惑を被るのは海軍側ということになる。それだけはダメだ。
 とりあえず店主であろうブルーノが顔を出すまでどこかで監視をすることにした。少し離れた路地裏でぼーっとするおれは怪しいかもしれないが、人通りはそれなりにあるから待ち合わせをしていると思われる……はず。そうしてしばらく立っている間に何人かから暇なら飲みに行かないかと誘われたが人を待っていると断らせてもらった。ウォーターセブンは随分友好的な街のようだ。


「……当たりか」


 店からビール瓶を片しに出てきた人間がただの一般人でないことは遠目に見てもはっきりとわかった。あれはCP9だ。それだけ確認をし、さっさとその場をあとにすることにした。見続けるのもよくないだろう。
 夜道を歩きながらぼんやりと考える。ああやって一般人に混じっているのならば、もしかしたら先ほど親切にしてくれた長鼻の彼もCP9だったのかもしれない。うまく化けてはいたものの、どう見ても一般人とは思えない身のこなしだった。……ということは、もしかしたらロブ・ルッチも船大工としてガレーラカンパニーに勤めている可能性が……あるよな。ヤバい、明日で目的達成してしまうかもしれん。


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