!本編後番外 「あ、あのね、アリィさん、私、お菓子持ってないのよ!」 少し頬を赤くしてベビー5がそんなことを言ってきたものだから、アリィは初め意味を図りかねた。今日はハロウィンだ。少女と女の間の微妙な年頃になったベビー5も例外なく、イベントごとを楽しんでいるのだとは思う。 だが、菓子がない、という宣言はどういう意味だろうか。これからやって来るファミリー連中に備えて菓子を分け与えてほしいのであれば、手持ちの菓子を渡すことなども考えた。ただベビー5の態度が気になった。 菓子が欲しいなら顔を赤くして言うような言葉ではないのだ。そして何より回りくどい言い方をする意味がない。くれと素直に言えばいいだけのことだ。ぷるぷると震えているベビー5を見ているうちにようやく彼女の言いたいことが理解できた。 「フフ、なるほどなァ。菓子がねェのか」 「そ、そうなの!」 「じゃあトリック・オア・トリートだ」 アリィの言葉でベビー5は全面に喜色を表した。どうやらアリィの言葉選びは正解だったようだ。わざわざイタズラをされたがる難解な女心をしっかりと理解できたわけではなかったが、暗に『イタズラしてほしい』と告げて来ていたのならば頬を染めて恥ずかしがるのにも納得がいった。 ベビー5はどんなイタズラであってもアリィから受けたものなら喜ぶだろう。だが、アリィは親心にも近い気持ちで、ベビー5が本当に心の底から喜ぶであろうことを選択した。 手の届く範囲にいたベビー5の腕を取り、身体を痛めることがない程度に引っ張った。バランスを崩したベビー5が転ぶようにして倒れ込んでくる。驚いている間に上を向かせ、身を屈め、頬に触れるだけのキスを落とした。 「フッフッフ、これで満足か?」 そうやって眼前でわざとらしくアリィが笑ってやれば、ベビー5は真っ赤に顔を染めながら「もうアリィさんっ!」と形だけ怒るようなそぶりを見せた。それでもわかりやすく嬉しそうにするベビー5が気の毒になる。 こんなもの、子供騙しのキスに過ぎない。家族に対する親愛の情を示しているだけだ。そんなことはベビー5にもわかっていることだろう。それでもきっとベビー5は救われるし、期待もする。いつか自分にもチャンスがあるのではないかと思わせてしまう。期待させるような真似をしてしまったことに少しだけ申し訳ない気持ちになる。顔を離してから、誤魔化すようにベビー5の頭に手を置いた。 「お前はちょっと綺麗に育ちすぎだな」 「えっ」 「他の連中に絡まれると厄介だから持ってけ」 持っていた菓子を取り出し、ベビー5に押し付けようとして、アリィは目を見張った。切なさを孕んだような潤んだ瞳がアリィを見上げていたのだ。先ほどよりも余程期待するような顔にさせてしまって、アリィはそこで自分の言葉の失態に気が付いた。 リップサービスのつもりは全然なかった。ぽろっと思ったことを口にしただけ。すなわち、本心だ。それがベビー5にも伝わってしまっている。今後、ベビー5を本気で惚れさせた責任を取ってやらなければいけない日が来るかもしれない。 片割れの妙に乗り気な態度を思い出し、浮かびそうになる苦い気持ちを押し留めて曖昧に笑った。 ちにくのゆくえで、本編後ハロウィンにかこつけて主人公に甘えてちょっと報われるベビー5相手を読みたいです!@匿名さん リクエストありがとうございました! |