なんだろうか、このデジャヴュは。

 おれが思ってしまったのも無理はない。なにせ、おれの愛しの弟、ロシーがドフィに殺されかかっているところなのだ。なんだこれは。ここは過去か? 何故おれが二度もこんなところを見せられなければならないのか。腸が煮えくり返るような怒りが湧いてくる。
 あまりのことに苛立って足を踏み出すと、ざくりという雪を踏んだとき特有の音が鳴った。全員の視線がこちらに向いて、唖然とされる。


「わ、若が二人……!? い、いや、年が……?」


 そう言葉にしたのはグラディウスだった。その言葉で、おおよそのことを理解した。この世界におれというものは存在しないらしい。通りで二回もこんな場面を見せられるはめになったわけだ。
 警戒しているのはドフィもロシーも同じこと。訳の分からぬ闖入者の存在を誰もが疎ましく思っているのである。おれだって好きでこんなところに来たわけじゃない。ドレスローザからこんなところに飛ばされて、寒いったらありゃしないのだ。さっさと国に戻ってベッドにでもこもりたい気分だ。
 はあ、とため息をつきながら海楼石の編み込まれた手袋をいつものようにはめ、じろりとドフィを──いや、ドフラミンゴを見る。ドフラミンゴは余裕ぶった表情を浮かべてはいたが、あれは警戒をしている顔だった。


「なんだなんだ、未来からおれが来たってか?」

「悪いがおれはお前じゃあない。お前の未来は知ってるがな」

「フッフッフ、じゃあなんだってんだ。お前は未来の影武者か?」

「影武者か、なるほど言い得て妙だ」


 もっともドフィが聞いたら怒りそうな台詞ではあるが。「誰が、誰の影武者だって?」そうそう、こんなふうに……こんなふうに?
 振り返ってみると、そこにはドフィの姿があった。部屋の中にいたのかコートを着ておらず、おれよりもいっそう寒そうなラフな格好で見ているだけで寒々しい。近寄っていっておれのコートをかけるとにんまりと笑みを作った。


「ありがとよ、だが風邪引くぞ?」

「お前に風邪を引かれる方が困る」

「フッフッフ! なら二人で入るってのはどうだ」

「馬鹿か。動きづらいから却下だ」


 第一どうやって二人で入るというのか。コートはおれたちにぴたりと合うサイズにしているのだから、狭いにも程があるだろう。
 今まで無視していた視線が向かってくる先へと振り返る。「同じ……?」と誰かが言葉をこぼした。ドフィとおれはまったく同じ顔と身体を持っている。だからこその違和感。おれたちには髪型という明確な違いがあるのだ。影武者ならそういうふうにはつくらない。同じでなければならないからだ。見分けがつくなど、言語道断である。


「当たり前だろうが、おれたちは双子なんだからな」


 はあ? とドフィが怪訝な表情を向けながら言った言葉に、ドフラミンゴが「おれに双子? なんの冗談だ」と笑った。しかしその空気は決して笑っているものではない。ふざけた冗談に心底腹が立つというようなものだった。ファミリーたちはぴりりと空気を張り詰めさせたが、おれたちがもう何年も前の自分を怖がるようなことはなかった。いたって平静に二人で会話をする。


「要するにここはおれが生まれなかった世界線なんだろう」

「あ? なんだ、おれたちゃ過去じゃなくて別のとこに来ちまったってのか?」

「そうだろ。過去の自分に出会ったんならおれがいない説明がつかない」

「そうか……フフ、アリィがいないなんて可哀想になァ」


 ドフィが他世界の自分に向かって、そう笑った。挑発にも煽りにも聞こえるその言葉は、きっとどこまでも本心だ。ドフィにとっておれはドフィと同一であり、唯一のものである。
 ドフラミンゴの顔がかなり不快そうに歪む。それはそうだろう。訳の分からないやつらが現れて勝手にぴーちくぱーちく言い始めたら溜まったものではないし、何より、ドフィに馬鹿にされたのだ。哀れまれた。それがどれほど神たる彼のプライドを傷つけることか、想像に難くない。
 このあとの戦いは荒れるだろうなァ、とすこしため息をついて、ドフィを見る。コートを脱いだせいかそれなりに寒くなってきたし、さっさと終わらせて船でも奪いたい。


「ドフィ、今はそんなことよりも、だ。おれたちの弟じゃあないにしろ、ロシーが殺されかかっている」

「そうかそうか、なら、」

「話を聞いていた限り、こいつらに捕まればきっとロシーもローも酷い目に遭うだろう。というか、ロシーはこの場で殺されるに決まってる」


 きっとドフィはなら殺しちまうか、と言おうとしたに違いない。あの時できなかったことをしてやろうとするだろう。ドフィはそれほどまでにあの裏切りを許しちゃあいないのだ。しかし、ローという存在は看過できるものではない。おれにとって重要なのはロシーの方だけれど、ドフィにとってあのとき取り逃したローは今でも喉から手が出るほどに欲している存在である。もし持ち帰ることができたのなら、あの世界にオペオペの身が二つあることになる。それはまさしく、ドフィの願いを叶えるのにうってつけの状況だ。
 おれの言いたいことは十分伝わったのだろう。ドフィの顔がにんまりと笑みを作った。至極楽しそうなその笑い方は、完全に悪人のものだったけれど、本当に悪人なので仕方ないだろう。


「ほう、なるほどなァ。なら助けるしかねェよなァ、おれたちの可愛い弟と、おれたちの可愛い部下に似た二人だ。目の前で酷い目に遭うところなんざ見たくねェ!」


 芝居がかった台詞だと思ったのは、おれだけだといいのだが、あるいは周りにも伝わってしまっているかもしれない。ドフィとドフラミンゴの考えが同じなら、オペオペの実の利用方法などただ一つだとわかりきっているのだから。ドフラミンゴが吼える、その顔に最早笑みはなく、まっすぐな怒りを露わにしていた。


「てめェら……! おれのオペオペの実を奪うつもりか!」

「フッフッフ、勘違いするな! お前らに酷い目にあわせられねェように助けようってだけだぜ」


 物は言い様、嘘は方便。オペオペの実が二つあれば研究などせずにドフィとおれの二人でいっぺんに不老になれるというわけだ。どちらにせよローの意思が必要になるわけだが、そんなもの薬でも使って素直にさせればいいだけのこと。そんなことは難しいことでもなんでもないのだ。
 ドフラミンゴがドフィに向かっていく。同じ能力である以上、年数が経っているだけドフィの方が有利だろう。それに関してはすこしも心配はしていない。


「ドフィ、そっちは任せた」

「おう、こっちは任された。あとはお前一人で平気か?」

「ああ、気にしなくていい。──じゃあさっさと片付けさせてもらおう」


 おれはファミリーの方をさっくりと片付けることにしよう。別に殺そうだなんて思っちゃあいない。だが、同時に生かしてやる義理もない。こいつらはドフィやおれと苦楽をともにしたやつらではなく、似ているだけの他人だ。どうなろうと構わない。
 あのときのように海楼石の手錠を使ってもいいが、もし急に帰ってしまい手元に残らないというのもなかなか困る。そう、だからおれのすることは一つ。


「足と腕砕きゃあ、大人しくなるか」


 ああでも、ロシーに危害を加えてるだろうし、ついでに爆発されると面倒だし、グラディウスだけは殺しとくか?

もしも原作のロシナンテ処刑シーンに出くわしたら


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