七武海としてドフィが会議に招集されることになった。今までのように断ってもよかったのだが、敵情視察もいいだろうと乗り込むことにしたらしい。場所はマリージョア。にんまりと笑っていたドフィだったがおれたちを追い出した今の天竜人たちには憎しみを持っているはずだ。緊張する、とは違うだろうが、ぴりぴりとした空気を発していることには違いなかった。部下や幹部たちもいつもと違うドフィの様子に気を使っているようだった。


「ドフィ、おれも着いて行く」

「あ? 別に構わねェが……珍しいな」


 ただ会議に出向くだけなのだから本来ドフィ一人でも問題のない案件である。おれも普段ならばそんなものなんとも思いはしない。他の七武海や四皇との戦争でもない限りは別行動した方が仕事の効率はいいと思う。だが昔のことが関わるなら別だ。ドフィも随分丸くなったが、それは猫かぶりが上手くなっただけに過ぎないのだ。
 何故一緒に行く気になったのかが気になるらしいドフィは、おれから目を離さずにじっと見つめてくる。どうしてかその仕草がロシーを彷彿とさせ、やっぱり兄弟なんだなと唇が笑みを作った。


「なんとなく離れたくねェ気分でな」

「……フッフッフ! 本当に珍しいこと言うじゃねェか! 仕方ねェからおれが一緒にいてやろう!」


 ドフィは随分上機嫌になって笑い、おれの肩を抱いた。おれも同じように腕を回してにやりと笑う。他者から見れば確実に変な光景だろうが、ドフィの執務室に入れるだけの信頼を持つおれたちのファミリーなら変だと思うこともないだろう。
 おれが離れたくないとあながち嘘でもない理由を口にしたせいで、ドフィは向かうまで本当にべったりとおれにくっついて来たがなんだか昔を思い出すようだった。海軍本部から迎えが来たとき、おれが着いていくことに難色を示した海兵がいたがドフィに脅されて仕方なく乗せることになった。
 国を離れ、しばらくして海軍本部に着いたおれたちを待っていたのはなんとつる中将だった。つる中将に追いかけられていた日々が懐かしく感じる。腕を組み口を一文字に結んだつる中将がおれたちを見ていた。


「来たね、悪ガキども」

「よお、おつるさん元気にしてたか? あとおれたちゃもうガキって年じゃねェぜ」

「中将からしたらおれたちはまだまだガキだろ」

「フフ、そりゃあそうか」


 その言葉の裏にある『おつるさんはババアだからなァ』という意味を含んだ笑みを浮かべたドフィは、つる中将から厳しい目を向けられていた。誰がババアだ、とでも言いたげな感情豊かな目にドフィとおれは顔を見合わせて笑う。そんなおれたちを見て「そういうとこがガキだって言うんだよ」とつる中将がぼやいていた。たしかにおれたちは昔からこうなのでガキと言われても仕方がないのかもしれない。


「アリィ、あんたにはここに残ってもらうよ」

「……あ? おつるさん、どういうことだ」


 つる中将の一言でドフィの機嫌が急降下した。最近気がついたのだが、ドフィは自身が蔑ろにされることよりもおれが蔑ろにされることを嫌うようだった。振り返ってみればドフィが船長、おれが副船長という明確な区分分けがなされてからのことだったと思う。そのときから周りはドフィとおれを明確に区別するようになったが、ドフィにとっておれはドフィと同じものなのだ。右半身だけ許されて、左半身は許されないような奇妙な不快感があるのだろう。
 かと言ってドフィがそんなふうに怒りを露にしたところで怯んだり屈したりするようなつる中将でもない。彼女は中将になるだけの暴力も精神力も持ち合わせている。そんな彼女がひよっこだガキだと思っている相手からの怒り程度で怯むわけがないのは当然のことだった。


「七武海に選ばれて呼ばれたのはドフラミンゴ、あんただけだ。双子だろうがアリィは呼ばれちゃあいないんだから、ここまでの乗船を許可しただけでもありがたいものだと思って欲しいけどね」

「……」

「ドフィ、落ち着け」


 今にも襲い掛かりそうに顔を歪めているドフィを小突くと、すこしは冷静になったらしいドフィは息を吐き出しながらお前も何か言ってやれとばかりにおれを見てくる。つる中将も何故かお前も何か言ってやれというふうに見てくるのだからおかしな話だ。たしかにおれはドフィより気は長い方だし、つる中将の言っていることは間違っていないとわかっているけれど、それでもおれは海賊でドフィの片割れなのである。


「別におれは構わねェさ」

「アリィ」


 離れたくなかったんじゃねェのか、何受け入れようとしてんだ、と不機嫌そうに見てくるドフィに軽く目配せする。着いていくと言ったのだ。そう簡単に諦めるつもりはない。視線を向けられただけでおれの言いたいことを理解したらしいドフィがニンマリと笑えば、つる中将は訝しげに目を細めた。今度は演技がかった大袈裟な動きでつる中将へ振り向く。


「むしろ中将にはいいのかって聞きてェくらいさ」

「……何がだい」

「わからねェか? 元帥や中将が出払っている海軍本部におれをひとり残してもいいのかと聞いてるんだ」


 七武海の会議ともなれば元帥であるセンゴクやつる中将は勿論、他の中将以上のメンバーも会議に出席することだろう。そんな戦力の落ちた海軍本部におれをひとり残してくれるというのなら暴れるよりももっと厄介なことをして待っていることにしよう。ひとりやふたり、陥落させることは容易いはずだ。出来ることなら中将くらいのものを監視につけてくれるとありがたい。その男を誑し込めば情報が一気に手に入れやすくなる。なんなら大将が相手でも構わない。少なくとも何も得ることがない、なんてことになりはしないだろう。
 おれの言葉にドフィが「フッフッフ! そりゃあいいな!」と楽しそうに声を上げた。反対につる中将の顔は顰めっ面になってしまっていた。そりゃあそうだよなァ、オペオペの実のときだっておれが情報をすっぱ抜いたことは分かっていることだろう。そういう人心掌握が得意な人間を残しておきたくはないはずだ。
 はあ、と深くため息をついたつる中将がおれたちを見た。その目にはニンマリと同じ表情を作る瓜二つの顔が見えているのだろうと思った。


「仕方ない……陸には上がらせないって条件なら構わないよ」

「……なるほどなァ、まあ、それならいいぜ。なァ、アリィ」

「ああ、十分だ」


 陸に上がらせないとはいえ、何かあればすぐに対応できる距離である。ドフィがおれに糸を伸ばせば会話も出来ることだろう。盗聴する必要すらないはずだ。おれたちが肩を並べて笑っている姿にもう一度ため息をついて、つる中将はピッと指をさしてきた。


「いい子にしてるんだよ」


勿論と同じ顔で笑った。

mae:tsugi

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