ミホーク成り代わり(拍手ログ)シリーズ
if『シャンクスとくっついたら』のお話で、ラブミーキスミーお約束過ぎるだろ鈍い青春吐息に混じるまでのベックマン視点。

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 初めてシャンクスと“鷹の目”が対決したとき、ベックマンも当然その場に居合わせていた。ベックマンの“鷹の目”に対する印象は、同じルーキーにしては洗練された気配を持つ男、であった。基本的に海賊という生き物にはおしゃべりが多いというのに、異様なまでの無口さが余計にそれを際立たせて見えたのかもしれない。
 襲いかかったのは、シャンクスの方だった。手合わせをしてみたいと斬りかかったのである。“鷹の目”の方は背負っていた剣を抜くこともなく軽くいなし、目を細めてシャンクスを一瞥した。その鋭すぎる眼差しを向けられたのはシャンクスだというのに、ベックマンまで背をゾッとさせられたものだ。しかし“鷹の目”はそのまま立ち去ってしまった。その頃すでに剣豪として名を馳せていた“鷹の目”にとって、シャンクスの一撃など日常茶飯事で相手にするほどの襲撃ではなかったのだろう。
 だがシャンクスはそんなことで諦めるような男ではなく、何度か襲いかかっていれば“鷹の目”はようやくシャンクスの名と顔を一致させた。剣をあわせているうちにある種の友人関係になっていったのは、奇妙と言えば奇妙な話だ。それもこれも、“鷹の目”という男が意味もなく他者を傷付ける男ではなかったからだろう。力の差は歴然としていたというのに“鷹の目”はシャンクスを殺そうとするどころか、手合わせに付き合ってくれていたからだ。いつの間にかベックマンたちとも言葉を交わし、船ぐるみの付き合いになっていた。“鷹の目”と会えば歓迎し“鷹の目”と宴をやるのが恒例行事になるほどにだ。それは“鷹の目”が七武海になったあとも変わらなかった。
 そんなシャンクスにとって船長として気を張らなくていい同年代の友人が、好きな人というカテゴリーに変わった日のことも、ベックマンは当然覚えている。多分、ベックマンにとってもそのときのことは衝撃的だったからだろう。

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「おおーい! 鷹の目ー! 鷹の目だろー! 久々だなァ、宴会しようぜ! 結構会ってなかったから積もる話もあるしよォ!」


 いつものように漂流している“鷹の目”を見つけたわけではなく、珍しいことに無人島を探索している最中にその寝転んでいた姿を見付けたのである。無人島のど真ん中、動物に囲まれて眠っている様にベックマンは正直驚いたものだが、シャンクスはそんなことお構いなしに駆け寄っていった。
 シャンクスの声に驚いたように動物たちが逃げていき、布団がわりにしていた毛の長い犬のようなものから起き上がることなく、“鷹の目”はため息をついた。帽子を顔の上に乗せたままだというのにはっきり聞こえたため息は、眠りを妨げられたことによるものだろう。


「その声は赤髪か……相変わらずうるさい」

「おれくらいうるせェのなんかそこらへんにいくらでもいるだろ」

「そうかもしれんな」


 言いながら起き上がった“鷹の目”が帽子を被り直し、そしてシャンクスを見た。凝視、と言っても差し障りのないほどの視線の先は、シャンクスの左腕に向けられていた。今はもう中身のないふわりと揺れるただの袖である。


「その腕は」

「ん? ああ、そういや会ってなかったからなァ」


 将来有望なガキのために帽子と一緒に置いてきた、とシャンクスは笑った。人一人救うための犠牲なら安いという微塵も後悔のない明るい笑みだった。
 とはいえシャンクスがこの話をするのは初めてではないため、いつものように慌てていたからとっさに覇気を使い忘れただの、女を抱くときに不便だのと笑い話にするつもりだったのだろう。“鷹の目”もいつものように、そうか、くらいしか言わないだろうと思っていた。


「馬鹿者が」


 話を聞いていた“鷹の目”の険しい表情が、より重みを増したものに変わる。まるで自分が腕を失ったかのような悲痛な顔をしてシャンクスを見ていた。可哀想と同情するわけでもなく、かといってこれは子どもを助けたことへの非難でもなく。シャンクスにとって“鷹の目”が友人であったように、“鷹の目”にとってもシャンクスは友人であったのだろう。それは間違いなく、他者を心配する、やりきれない眼差しであった。
 そこでベックマンは、ああ、と一人納得した。シャンクスという男は明るく気さくで嫌みにならない社交的な性格をしていて、言うなれば人たらしだった。船外の友人など“鷹の目”以外にもたくさんいる。しかし“鷹の目”は、と聞かれればそれは間違いなくノーだ。“鷹の目”という男は話してみれば悪人ではなく、寧ろ規格外に剣の腕が立つだけの善良な男であるということがわかるが、“鷹の目”という悪名と有り余る剣の才能、そして何よりも近寄りがたい雰囲気がそこまでの関係になることを許しはしない。七武海になってしまった今はなおさらだろう。その上本人に他者と仲良くしようという気持ちが微塵もないのだから、どうしようもないのだ。そうすると必然的にシャンクスのようにしつこいくらいに構ってくる者だけがその傍に寄ることを許されることになる。
 要するに、“鷹の目”にとってシャンクスという男は、特別なのだ。唯一無二の友人と言ってもいいかもしれない。ベックマンに“鷹の目”の友好関係など知るよしもないが、まず間違いはないだろうと納得した。だからこその心配なのだろうと。唯一無二の友人ならば、当然死の危険に晒されてほしくはないはずだ。
 ベックマンはそうして納得して、ふと違和感に気がついた。シャンクスならこういうとき、シリアスな雰囲気を嫌って、笑い話に変えるはずだ。どうかしたのだろうか、と視線を向けて後悔した。──存外惚れやすいわけでもない我が船長が恋に落ちたとでも言いたげな顔をして立っていたからである。

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 シャンクスにとっても“鷹の目”が特別になったあの日から何年も経ち、やきもきしながら見守っていたら二人は突然くっついた。普段なら宴を終えればさっさと帰る“鷹の目”が一晩泊まっていき、ベックマンを含めた幹部たちがこぞって部屋の前に詰めかけ、シャンクスが泣き腫らした顔で出てきたときはびっくりしたものだが、シャンクスがグッと親指を立てたところでなるようになったのだとわかった。
 その日はお祝いとばかりにもう一度宴をやって、“鷹の目”がかなり気まずそうな顔をしていたのが今も鮮明に思い出せる。そのあとも新入りがお楽しみの邪魔をしたりなんだかんだと色々あったが、あれはちょっとしたアクシデントで他意はない。それで不仲になったというわけでもないのでいいのだろう。


「馬鹿だよなァ、ホテルに呼ぶから絶対来るなよとか言っちまってよ。今からしますって宣言することじゃねェだろそりゃあ」

「おれらだってさすがにホテルまでは行かねェし、言わなくてもそれくらいわかるっつーのにな」

「浮かれてんだろ、ほっとけほっとけ」


 シャンクスがホテルを取って“鷹の目”とのお楽しみ中であろう間、クルーたちは街に出たり船に留まったりといつものように勝手している。しかし何故だか幹部とも言える古参の連中たちは、皆で集まり酒を煽っていた。誰もはっきりと口にすることはなかったが、シャンクスの思いがようやく報われたことに対する小規模な宴だった。飯を食い、酒を飲みながら、自然とシャンクスと“鷹の目”の話をして盛り上がる。その中で、ここまで長かった、とベックマンは一人笑った。

君よ、幸福であれ

ミホーク成主×シャンクスif設定で出会いから初夜に致までベック+α視点@月夜蛍さん
リクエストありがとうございました!



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