「鷹の目〜! 好きだー!」

「何度も聞いた」

「お前はどうなんだよ〜!」

「うるさい。耳元で騒ぐな」


 いつものように酔っぱらったシャンクスを部屋へと連れていき、ごろんと寝かせるものの相変わらず抱き付いてきたりキスしてきたり告白してきたりと忙しい。もしかしておれってベックマンたちにいいように扱われてる……? 面倒事押し付けられてる? なんて思いながらも、言うほど面倒に思っているわけではなかった。陰気でしくしく泣かれるよりは陽気でケラケラ笑ってる方が余程いいし。あと慣れてきたっていうのもあるんだろうな……こいつ、いつもこんなんだし、おれが他に飲む相手もいないから。ぶっちゃけ、本片手に酒飲んで適当に対応してるだけだしな。
 おれが本を片手にうるさく酔っ払うシャンクスが、不意に黙り込んだ。言葉を発することなく静かにしているのである。もしかして眠くなって寝たのか? と視線を向けてぎょっとした。声も出さずにぽろぽろと涙をこぼして泣いている。シャンクスは前述した通り、酔っ払っても気分が盛り下がるタイプでは決してない。だから正直死ぬほど驚いた。おれが目を離している隙にいったい何があったんだと目が点になる。


「おい、赤髪……」


 どうした、と聞こうとした唇はキスで塞がれる。お、おい……泣きながらキスしてくんなよ、本当にどうしたんだお前。テンション高くなってるときならただのキス魔ということで済むが、いったい何があったらこういう状況になるんだ。混乱しすぎて頭が痛くなりそうだ。好き勝手キスをしてきた唇が離れ、目が合う。涙のかかった赤い睫毛は、妙な色気を醸し出しているような気がした。ぽつり、何か言葉を発するシャンクス。けれどおれの耳には届かない。もう一度言ってくれ、と言うよりも早く、今度ははっきりと声が届いた。


「お前のことが、好きなんだよ」


 嗚咽もなく、こぼされた言葉。涙もぽたりとシーツに染みを作っていく。困惑。シャンクスがおれに好きだと言うのはいつものことだ。いつものこと、だけれど、これはもしかして……? おれの予感は的中してしまったようで、シャンクスは目蓋を閉じて涙と心に留めていた想いをあふれさせる。


「すき、すきなんだよ、おれは、ミホークのこと、」


 ああ、これ、本気で言ってんだ。多分、愛とか恋とか、そういう意味で。何度も言われてきて一度してそんな考えに至らなかったのに、今ばかりは理解してしまった。今初めて気が付かれても、遅いよな。シャンクスはおれが黙っているうちに、ベッドの上で身体を丸めて泣いている。小さく好きだと言われておれは心苦しくなっていく。そうしているうちにシャンクスの声は聞こえなくなって、代わりに寝息が響き始めた。酒量も結構多かったし、泣いたことで疲れて眠ったのだろう。それにしても意外だった。シャンクスは、とても静かに泣くんだな。
 ……さて、おれはここからどうしたものか。まさか男から告白されることになるとは、全然思ったことなかったわけでして。丸まって眠ってしまったシャンクスを見ると、心が痛くなる。断るならこのまま去って次に会ったとき何食わぬ顔をするかもう二度と会わぬべきで、オーケーを出すのならこのまま残るべきだと思う。
 いやでもさあ……男同士だぞ。男同士。子供じゃあないんだからケツに突っ込み突っ込まれる関係になる可能性も考慮しなきゃならないんだろ? ……おれ女の子が好きだし、突っ込まれるのは怖すぎる。ケツは出口であって入り口じゃないんだぞ。だからと言ってシャンクスは一番仲のいいやつで、なんだかんだ付き合いも長いし、さくっと切り捨てることなどできるわけもない。……頭が痛い。
 そうやって一人悶々と考えているうちに、ふと気が付いてはいけないことに気が付いてしまった。今までキスとかされてきたけど、おれ、シャンクス相手に気持ち悪いと思ったことはないんじゃないか? ……本当に始めの頃のことは覚えていないので慣らされた、という可能性も大いにあるが、それでもとりあえずキスは平気なわけで。ケツだって別に突っ込む方ならゴムもするだろうし、そこまで問題はないと思う。女相手でもアナルセックスとかあるわけだし……勃つかと言われればわからないが、刺激を与えりゃ勃つもんは勃つだろ。男相手でも平気だって思うとちょっと嫌だけど、誰にでも平気ってわけじゃないと思うし。そんでもって他に好きなやつもいないのだから……まあ、いい、か?
 恋だの愛だのという理由でシャンクスを好きなわけではなかったが、それでもシャンクスのことは好きだ。シャンクスにとっては、この感情では嬉しくないかもしれない。でも、シャンクス以上に好きなやつがいないのも事実だ。この世界で一番大事で一番信頼している一番好きな人間は、間違いなくシャンクスなのだ。だから、おれはここに残る。シャンクスの思いを受け止めたいと思った。


「……なんじゃ、今の、恥ずかしか」


 思わず口を突いて出る方言。考えたことが青臭くて恥ずかしいではないか。とりあえず身体を丸めて寝てしまったシャンクスの寝相を直してやることにした。このまま寝ていたら明日の朝、痛い目を見ることは間違いない。いつも寝ているように身体を動かしてやって、布団もかけてやった。シャンクスの目元はすっかり赤くなってしまっている。濡れタオルでももらってくるべきか、と考えたが、そういえばシャンクスの部屋の隣にはご丁寧にシャワールームが備わっていたはずだ。覗きに行ってみればきちんとシャワールームがついていて、しかもタオルまで用意してある。案外綺麗好きらしい。
 タオルを濡らし、部屋に戻るとシャンクスはまだ眠っていた。おそらく当分起きることはないだろう。目元を覆ってやると気持ちがいいのかすこし顔を押し付けてくる。寝ていてもわかるらしい。適当に冷やしてからタオルと手を離すと、クア、と欠伸が出た。おお……珍しく眠いぞ。ベッドに潜り込むのはさすがにマズイか? ……いいか。あんまりベッドで寝る機会がないからこの期を逃したくないし。

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 ベッドに潜り込んでおそらく数時間ほど。ドアの前に人が集まっている気配を感じて、目を開く。シャンクスは隣でまだ眠っている。ということは他のクルーたちがいるのか。……一晩を共にする、というようなことではないにせよ、おれがこの船に泊まっていったことなどなかったので、おそらく何かあったと踏んで集まってきたのだろう。もし仮にシャンクスの気持ちを知っていたとするのなら、ナニかあったとき集まっても気まずいだけじゃないのか? そう思いながら伸びをしてベッドから出ようとしていると、シャンクスが小さく呻いた。視線を向けると目がぱちりと開いた。


「ん、……ん? ……どわああっ! な、え!? ミホーク!?」

「そうだが」


 起きがけからうるさいなこいつ。驚いたシャンクスはどん、と背中を壁に打ち付けるまで後ろにさがった。いや、そこまでの反応されると若干傷つくんですけど……。ため息をつきながらベッドを出て、もう一度身体を伸ばす。座って寝ているときよりは快眠だった。やっぱり人間はベッドで寝るべきだな……。


「え、な、なんで、いるんだ?」

「いたら悪いのか」

「いやいいけど! いいんだけど! いつもお前、帰るだろ?」


 シャンクスの言うことは間違いではない。いつもなら間違いなく帰っているだろう。シャンクスが起きるのを待つ理由も特にないしな。しかし今日ばかりは用があって残ったのだ。それなのにこの言い様……もしやこいつ、昨晩のことなどすっかりお忘れか? 振り返ってじとっと目線を向けてみても、シャンクスは頭の上にクエスチョンマークを浮かべているような顔で首を傾げている。……どうすっかな、一応イエスって答えるつもりだったんだけど……。放置して素知らぬ顔、ということもできぬわけではない。
 そんな卑怯なことを考えたとき、ふと頭をよぎったのはシャンクスの泣き姿だった。できることならばあまり見たくない、心を抉られる泣き様である。無視すればあんなものをまた見せられる可能性があるわけで、それはごめん被りたかった。


「昨日、お前が言ったことを覚えているか」


 おれの言葉にシャンクスは目蓋を二、三度開閉させて、それからサア、と顔色を悪くした。どうやら覚えているらしい。そして仕出かした、と思っているようだ。なんと言ったらいいか、という顔をしているシャンクスに追い打ちをかける。「泣きながら好きだと言っていたが、あれは恋愛感情のものでいいのか?」とどストレートに言葉をぶつけると、もっと顔色を悪くさせる。なんか面白くなってきた。そうこうしているうちに、すこし泣きそうな顔になってシャンクスは頷いた。諦めたような表情はやめてほしい。決心したおれが馬鹿みたいではないか。


「それで? お前はどうしたいんだ」

「……え?」

「おれが好きで、そのあとは?」


 だからつい、少し意地悪な言い方になってしまった。普通に嬉しいありがとうって言えばそれで解決しただろうに、ひねくれた言い方ではそうもいかない。シャンクスはいまいち言葉の意味を理解していないのか、首を傾げたまま固まってしまった。おれの答えがイエスであることに気がつけないシャンクスに一歩近づく。シャンクスはびくりと肩を跳ねさせながら、目を丸くさせた。もう一歩近づくとシャンクスは下がれない身体を後ろに下げようとして身体をぴたりと壁にくっつけていた。なんだこれ、おれが襲ってるみたいじゃないか。納得いかない思いを抱えながらも顔を近付けて、もう一度「どうしたい、どうしてほしい」と聞いた。シャンクスは、ここでようやくおれの答えに気が付いたようで呆然としながらも望みを口にする。


「……キスがしたい」

「それで?」

「一緒にいて、いちゃいちゃして、……抱かれたい」

「即物的だな」

「あと、おれのことだけ、……好きになって、ほしい」


 呟かれた言葉は震えていた。なんだかなあ、何か知らないけど、ちょっと可愛いとか思ってる自分がいてびっくりする。ご要望にお応えしてキスをする。「これでいいか」。触れるだけのものだが、それだけでシャンクスの涙腺は決壊する。ぼたぼたこぼれた涙を拭ってやれば、子供みたいに泣き始めた。抱きしめて、こっちの方がシャンクスらしいな、と口が笑う。
 外では声がはっきりとは聞こえなかったせいか、ドアを押すような音が聞こえてくる。これ、ドア開かないよな? さすがに開いたら恥ずかしいんだが……。そんなふうにシャンクスが泣き止むまで、恋人を初めて抱きしめるのとは別の緊張にかられ続けたのであった。

ラブミーキスミー

ミホーク×赤髪、if設定でうっかりほだされた鷹さん@かとう みきさん
リクエストありがとうございました!



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