ミホーク成り代わり(拍手ログ)シリーズ
if『シャンクスとくっついたら』のお話で、ラブミーキスミーお約束過ぎるだろの続き物。

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 ずきり。見に覚えのない頭痛で目を覚ますと、妙な温かさを感じた。え、なに? 何があったんだ? 意味がまったくわからなくて、とりあえず起き上がろうとして、そして気が付いた。
 ……おれが、シャンクスを、組み敷いている。
 内心おれは阿鼻叫喚だ。なんでおれの下にシャンクスが寝てるんだとか、意識のないうちにヤっちまったのかとか、いろんなことが頭の中で巡った。しかしふと服を脱いでいないことに気がついて、どれだけ焦っていたんだと思わされて恥ずかしくなる。明らかにヤってない。いい大人なんだから落ち着けよ。
 シャンクスを起こさないように起き上がって、床に座り込む。それからゆっくりとこんな状況になるまでのことを思い出し始めた。

 会おうと決めていた日が昨日で、いつも通りの宴会かと思いきや、シャンクスがおれの酔ったところが見たいと言い始めたんだったな。迷惑をかけるし、一応恋人であるシャンクスに変なところは見せたくないし、と思ったんだが、そんなの全然迷惑じゃないぞと笑ってくれたから、じゃあいいかってな感じですごい勢いで飲み始めたはずだ。
 しばらくして、頭がぼうっとして何も考えられなくなってきたような気がする。おそらくそこで酔ったのだろう。それから……それから?

 ぼんやりとした記憶をどうにか引っ張り出さんと意識を強めていると、シャンクスのやつが小さく呻いた。おれが退いたことで寒くなったのだろうか。とりあえず考え事は中断して、シャンクスを抱え上げる。すると、意識もないのに猫みたいにすりよってきた。なんだか可愛らしいな、と思ってからハッとする。恋人になったとは言え、相手はおっさんだぞ。……いや、おっさんとは言え恋人なんだからそれでいいんだろうけど。
 シャンクスをベッドに横たえながら、関係性というものは思いの外強い力を持っているものなのだと思った。付き合う前はシャンクスのこと、そんな目で見たことなかったんだけどなァ……今は可愛いと思ったり、ふとしたときにドキッとすることもあるし、無様なところは見せたくないと格好つけたくなる。多分だけど、シャンクスとの関係性に感化されて変わってしまったのではなくて、おれが気が付かなかっただけで、元々そうだったんだろう。“男だから”。そういう意識が先行して気が付かなかっただけだ。
 軽く唇が笑う。シャンクスの髪をさらりと撫でてから布団と呼ぶには薄っぺらな布をかけてやり、それから一応「シャワー借りるぞ」と声をかけた。シャンクスが唸って返事のような言葉を発したので、おれはありがたくシャワーを借りることにした。

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 シャワーを浴びてすっきりしたところで思い出してしまった。──襲われることを期待していたと言ったシャンクスに酔った勢いで襲いかかった挙げ句、首にキスしたところらへんで寝落ちした。
 ……これはヤバい、すごい恥ずかしいぞ。いい年したおっさんが、セックス目前で寝るとか……! しかも受け手側であるシャンクスがわざわざ意思表示までしてくれたのだから、余計に申し訳ない。つーかそうだよ、シャンクス、最初に言ってたじゃん。抱かれたいって。今まで手も出さずにいたおれって……本当、甲斐性なしっていうかなんつーか……!! 身体を拭いて、新しい服も着たというのに、一向に外に出られなくなった。顔合わせづれえ……!

 そんなときばかり、神様というやつはタイミングを読んでくるもので。

 ばたん! とすごい勢いで開いたドアの向こうにいたのは当然のようにシャンクスのやつだった。シャンクスはおれを見つけるなり、ほっとした表情になる。……心が痛むのはおそらく気のせいではない。


「ここにいたのかミホーク!」

「……ああ」

「床で寝てたはずなのに起きたらベッドで寝てるし、お前はいねェしでびっくりしちまったよ」


 そう言いながらシャンクスが笑ってきたので、おれは「すまん」と言葉を返した。おそらくシャンクスはおれがいなくなったと驚き、慌ててこっちにやってきたのだろう。あのほっとした表情を見る限り、シャンクスのことを放って帰ったと思ったのかもしれない。……あー、完全に不安にさせてるじゃねェか。海に出て人と関わることが極端に減ったせいか、ちゃんとコミュニケーションが取れなくなっている気がする。このままじゃ、本当にダメになる。
 それだけは避けたくて、意を決してどうにか言葉を発しようとしたのに、口から出たのはなんとも煮え切らない音だけだった。


「その、なんだ」

「ん? どうしたんだ?」


 ……言っても伝わらないことだってあるんだから、思いは最低限ちゃんと言葉にしないとダメだぞ、おれ。自分を叱咤して、シャンクスを見る。軽く息を吸い込んでから、不思議そうな目線を送ってくるシャンクスに、はっきりと言葉を向ける。


「言わんが、お前のことは、……きちんと好いている」

「っ……お、おう!」


 ……やべえ、想像以上に恥ずかしい空気になった。改めて、というか、きちんとシャンクスに気持ちを伝えたのは初めてだ。おかげでシャンクスの顔はゆでダコよりも赤くなってしまっているし、おれもなんだかまっすぐシャンクスの顔が見れないだなんていう、なんともむず痒い空気に成り果てたのである。
 大人だからさ、好きとか愛してるとか、そんなのあんまり言わないんだよね。だから改めてとかすげえ恥ずかしいわけで。でも一回も言ってないのもどうかなとか思っちゃったりするわけでさあ! ねえ!?
 脳内で言い訳をしまくっていたら、いつの間にかシャンクスの顔がでれっでれになっていた。よくもそこまでだらしない表情を作れるものだと感心してしまうほど、シャンクスの顔は緩んでいる。
 目線があうと、シャンクスはおれに飛び付いてきた。ちゅーと呼ぶに相応しい、唇を押し付けるだけのキスをしてくるシャンクスに応えながら、ふと思ったことをこのまま口にした。


「それから、一度目くらいは素面がいいと思っている」


 言われたシャンクスの方はなんのこっちゃという感じで、まったく言葉の意味をわかっていないような顔をしている。おれも主語を言っていないため、わからないだろうな、と思っていたところだ。それに関しては直接的な言葉を告げるのもさほど恥ずかしいわけではないのでさくっと言ってしまおうかと思ったのだが、それでもおれが何を考えているのか当てたいのか、むむむと唸りながら考えてくれている。しかしながらわからなかったようで、シャンクスはおれの目をまっすぐに見てきた。


「ヒントくれ、ヒント!」

「ヒントか……昨晩のこと、だな」

「昨日のかー、って……ミホーク、覚えて、」

「るに決まってるだろう」


 それだけで意味はまるっきり伝わったようで、シャンクスの顔がじわりと赤く染まっていく。自分から押すのは平気なようだが、相手から直接伝えられるのは慣れていないらしい。……可愛いやつだなァ、と思ったら、つい手が伸びていた。ぐっとシャンクスの後頭部をつかんで引き寄せ、口を塞げばすこしばかり驚いたようだったが、まあそこは大人である。シャンクスはおれの身体に手を回して、口の中に押し入れたおれの舌に自分の舌を絡めてきた。手慣れてる感がちょっと悔しい。
 唇が離れた頃には、お互いちゃんとスイッチが入ったようで、啄むようなキスをしながら服を脱がし始める。シャンクスとはいえ、おっさん相手にマジで勃ちそうな自分がすこしばかり怖いが、恋人相手に勃たない方が問題なのだからいいのだ。──なんて思った矢先のことである。


「頭ァ! 飯できましたよォ! って、あっ……えーと、あの、お楽しみ中でしたね!?」


 こ れ か ら お た の し み だ っ た ん だ よ 。
 と思ったところでさすがに言えなかったので、目元を覆って俯いておいた。がっつりくじけた。こういうのは勢いと雰囲気が必要で、ぶっ壊されるともうなんて言うかさ……わかるかな、これ。彼が部屋から出ていったとしても、はいじゃあやりなおしましょ、とはなかなかならない。なんでかって言うと、まだ一回もしてないから! 慣れてる二人ならまだしもな! 無理だから!
 シャンクスも「あー」と呻いて、じとっとクルーを見た。さっさと出てけってなことなんだろう。シャンクスのやつ、ヤる気か……。悪いがおれはこの空気のあと続けられる自信がないぞ。クルーは慌てて出ていこうとしていたが、おれが「待て」と引き留めた。


「あと五分ほどで向かうと伝えてくれ」

「あ、は、はい! それじゃあ失礼しまっす!!」


 出ていったクルーを見送ってシャンクスを見れば、じとっとした視線はおれに向かっていた。ぽんぽん、と軽く頭を叩いてから額に唇を押し付ければ、シャンクスの機嫌もすこしよくなる。なんだか犬のようだなァ、なんて言ったら怒られそうなことをぼんやり考えてしまった。


「朝から、というのもなんだ。次の機会にしたらいい」

「……邪魔が入らねェとこでな」


 恨みがましい目線に頷けば、シャンクスはぎゅうぎゅうと抱きついてくる。可愛い……可愛いとは思うんだが、さっきのクルーの話を聞いて古株たちがちょっかい出してきたらと思うときっついから! 頼む、早く飯食いに行こう!

鈍い青春

鷹の目成り代わりシリーズifのお約束すぎるだろの後日談。主人公視点、キャラ視点どちらでも@遊佐さん
リクエストありがとうございました!



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