男は、そこにいた。

 いつからいたのか、いつの間に現れたのか、何が何だか、わからなかった。ずっと前からいたような気もするし、今もいないような気さえするし、男を見ているだけで、混乱させられる。それはおれだけではないようで、そこかしこから混乱している空気を感じる。
 真っ黒の服を着ているこいつは、看守では、ない。それはわかる。服が違っていても、存在感が違うのだ。まるで親父と対面した時のような……いや、親父と対面した時よりも、よっぽど、嫌な感じだった。
 男は何をするわけでもなく、じっとおれを見ていた。檻を見ていただけかもしれないし、そもそもおれの方を向いていただけかもしれない。それでも、おれは見られているとしか、感じられなかった。品定めするような、弄るような、冷たい瞳。背筋をぞわりとした何かが這い上がっていく。身が凍るような体験をしたのは、はじめてかも、しれない。しかし同時に焼かれているようでもあり、──恐ろしかった。目の前の男が。まるで靄がかったようにぼんやりとした輪郭の中、冷たい瞳だけが見える、その男が。そうして男の口が、ゆっくりと、開いて。


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