「天使っ! お前すっげ〜〜なァ! おれの仲間になれよ!」 シャッキーさんのところに着くなり、ルフィはきらきら目をしてそう言った。たしかにリュツィちゃんはすごかった。空中からの攻撃でアシストしてくれたおかげで、怪我一つすることなく私たちは逃げてこれたのだ。それに飛んでいる姿はとても美しかった。天使というのも納得が行く。そんなリュツィちゃんを勧誘したり、すげーだのなんだのと言うと思っていたけど、女の子の羽根を容赦なく引っ張りながらそう言っていたので思いっきり拳骨を噛ましておく。いってー! だなんて大げさに叫んで手を離した。リュツィちゃんと名乗っていた天使は気にしたふうもなくカラカラと笑っている。 「なんやわし、今日はモテモテやな」 「今日に限ったことじゃあないだろう?」 「そうそう、リュツィちゃん、男にも女にもモテるから」 「シャッキーちゃんみたいに本命の男がおるやつも含めりゃあ、ま、モテる言うてもええか」 じろり、とリュツィちゃんはレイリーさんを見た。どうやらシャッキーさんの本命というのはレイリーさんのことらしい。ここに住まわせているとか言っていたし、当然か。それにしても年齢のわりにずいぶんとませた子だ。私の子供のころをすこしだけ思い出させてくれる。どうしてこんな言葉知ってるの? っていうような言葉を知ってるものなのよね、女の子って。 「私の本命はお前だからいいじゃあないか」 「冗談は顔だけにしておいたらどうや?」 おじいちゃんの発言にしてはなんとなく生々しいような……? き、気のせいよね。私が感じた違和感をゾロも感じたのか、小さな声でロリコンじゃねーかあの変態ジジイとつぶやいていた。ルフィは懲りていないのか、リュツィちゃんの背中の羽根にそろりと手を伸ばしている。それに気が付いたのはサンジくんも同じだったようで、ルフィの頭に思いっきり踵落しをした。ごんッ! とすごい音がして、ルフィは床に倒れている。 「いって〜〜〜っ! 何すんだよ!」 「お前こそレディに何してんだ! 大丈夫かい、リュツィちゃん」 「おん? 大丈夫やで」 何が起きているのかわかっていないとばかりのリュツィちゃんが首を傾げている。サンジくんは可愛すぎるリュツィちゃんにでれでれするどころか、ちょっとドギマギしている。……言いたくはないけどサンジくん、その子まだ一桁の年齢だと思うわよ。ゾロが鼻で笑いながら女好きのロリコン野郎と馬鹿にしているが、さすがに仲間から性犯罪者が出るのは避けたいところだ。リュツィちゃんはゾロの言葉を耳にして、じっとサンジくんを見つめた。サンジくん……お願いだから本気でドギマギするのやめて! 「なんや兄ちゃん、女好きなんかい」 「え、い、いや、その、なんていうか……」 「てめーは女好きだろーが」 「黙ってろマリモォ!!」 「ああん!? やんのかてめェ!」 がるるるる、とけんか腰になった二人を見て、レイリーさんとシャッキーさんは楽しそうに笑ってくれている。リュツィちゃんは二人の喧嘩を止めに入った。小さいのによくできた子だ。ふわふわと飛んで近づいたリュツィちゃんは、二人の頭を軽く小突いた。 「落ち着きや二人とも。わしは別に女好きを非難してるわけとちゃうで」 「ちっ……」 「なんで舌打ちしたんだてめェ……」 「ええから落ち着けっちゅーに」 ちゅ、と触れる。え、とみんなが固まった。特に、サンジくんが。シャッキーさんやレイリーさんまで目を開いて驚いている。そのまま唇は離れることがなく、寧ろ割られ、距離がいっそうに近くなっている。十秒ほどの静寂があって唇は離れたが、サンジくんがわなわなと震え出したので、ゾロもドン引きしたように身を引いた。 「……今、舌、入ってたわよね?」 「お願いロビン、それは言わないで!」 ロビンの一声で周りは阿鼻叫喚だ。リュツィちゃんがけたけたと笑い、ルフィが首を傾げ、チョッパーがきょとんとしている以外は。先ほどまでにこにことしていたレイリーさんでさえ大慌てだ。やっぱりリュツィちゃんのおじいちゃんなのだろうか。──リュツィ、私にもすべきだろう! という言葉は聞こえなかった。私には全然聞こえなかった。リュツィちゃんは容赦なくレイリーさんの横っ面を殴りながら、サンジくんに振り返る。 「兄ちゃん、ええこと教えてやるわ」 「ッ、な、何を?」 にこにこ。とても愛らしい顔をするものだから、私までどきりとさせられる。同性の幼い子にそんなふうに思わされるなんて思ってもみなかった。リュツィちゃんはゆっくりと桜色の唇を開く。 「わし、女とちゃうねん」 サンジくんが盛大に吐いてリュツィちゃんの大爆笑が響き渡った。 |