メアリがその言葉を口にした途端、ボルサリーノは笑い出した。何が面白いのかおれにはわからない。ていうか、三人の中から選んでねェし。……え、三人から除外してあるはずのセンゴクさんを敢えて選んだってことはもしかしてメアリってジジ専か? って、あの年の女の子で年齢差から考えりゃあボルサリーノとサカズキも大して変わらねェか。ってことは……ああ、センゴクさんが爺様に似てるから? ……恋愛的な意味じゃなくて、ファザコン的な意味だったのか。そりゃあ、恥ずかしいか。


「もー! ボルサリーノさん笑いすぎですってば!」

「いやァ……ごめんねェ〜。すっごい大人な発言だからさァ」

「大人な発言?」


 むしろ爺様に似てるセンゴクさんを選んだってのは子供っぽくないか? おれがそんなことを考えていると、ボルサリーノは「えェ? だってほら、三人から選んだら角立つだろォ? だからわっしらの上のセンゴクさんならだァれも文句は言えないし」と言った。いや、そんなことで角立つか? たしかに選ばれりゃあ嬉しいけど、選ばれなかったらどうのこうのって言うほどのことではなく、角立つなんてことはないだろう。仮におれが選ばれてもサカズキが御冠ということもないはずだ。どんだけ入れ込んでんだよって話になってちょっと引く。


「いや、別に選ばれなかったことに怒るようなやつっていないでしょ、おれたちだって大人なんだから」

「安心してください。勿論、クザンさんは除外してましたよ!」

「おいコラ、どういうことだ」


 メアリがとってもいい笑顔でおれに向かって親指を立ててくる。そう言われると腹が立ってくるのはなんでだろうか。自分のことを“素敵な男性”だなんて言うつもりはないが、おれだってそれなりにはモテるのにこの扱い。ただ職業だの給料だの、という点で見たらおれたちはほぼ同列で、三人の中でおれが突出している部分と言えば若さくらいだろうか。あとはとっつきやすい……か? 三大将という時点でとっつきやすさなど既に消失しているも同然なのであまり関係がない。
 メアリはため息をつきながらおれを見てくる。なんだろ、おれ馬鹿にされてんじゃねェかなって感じがする。もしくは舐められてる。サカズキとボルサリーノにはそんな口絶対にきかないくせに、どうしておれにはそんなふうな対応してくんのかね。


「別にクザンさん、選ばれたかったわけでもないですよね?」

「……まあ、そりゃそうだ」

「じゃあいいじゃないですかー。あ、我儘っ子ですか?」

「ワガママはいかんねェ〜」

「ですよねー?」


 ボルサリーノとメアリは目線を合わせて笑っている。なんでこいつらこんなに仲良しこよしなんだ。元々ボルサリーノは可愛がってはいたけれど、ここまでではなかったはずなのに妙に構っているような空気感だし、メアリも普通にべったりだし。…………。ちょっと落ち着こう。なんか、おれ、嫉妬してるみたいになってる。可愛い妹分を取られたって言っても、おれに一番馴れ馴れしいことには変わりない。うん。
 だから今一番嫉妬の炎に燃えているのはサカズキの方だろう。可愛い娘が自分以外をパパって呼んでるようなもんだ。そりゃあメラメラでしょうよ……正しく言うとマグマグだけど。メアリは黙り込んでいるサカズキの向こう側を見て、「あ」と言葉を漏らした。メアリの視線の先には置き時計がある。もうすぐ十二時十分になろうとしていた。メアリはくるりとおれたち全員の方を向いて頭を軽く下げた。


「用がありますので、ちょっと失礼しますね」

「あれ、飯は一緒に行かねェの? いつもは一緒に行くってきかないくせに」


 おれの言葉はなかなかいいところを突いてしまったようで、サカズキの殺気が軽くこちらに向かってくる。やっちまった。メアリはまったくそれに気が付いた様子はなくて、「フフフ」と実に楽しそうな笑い声を漏らした。よくぞ聞いてくれました、的な空気を感じる。


「実はですね、マライアに昼食を誘われまして」

「へー誰だか知らねェけど友達できたんならよかったじゃない」

「あれ、クザンさんチェック入れてないんですか?」

「チェック?」

「やだなー、以前話したじゃないですかー。新しく食堂に入ったけしからん乳のマライアですよ!」


 ぴしり、場の空気が綺麗に凍る。凍らせた張本人であるメアリはさすがにそれには気が付いたのか一瞬首を傾げたものの、満面の笑みで「じゃ、約束があるので!」と立ち去ってしまった。……おれはというと、光とマグマからどうやって逃げようかと考えていた。完全にキレてらっしゃる。ゆらりと立ち上がったマグマと、にっこりと笑った光がおれの方を見る。


「クザン貴様何を考えておるんじゃ……」

「言い訳くらいなら聞いてあげるよォ」


 教育的によろしくないことを教えやがってふざけてんじゃねーぞお前ぶっ殺す、ってな顔をしてるけれど、おれ何もしてないからね! メアリの前でそんな変な言葉とかやらしい言葉とか使ってないから! けれど今の二人におれの発言なんてなんの力もないことはよーくわかっている。言おうものなら往生際が悪いとか言って攻撃してくるに違いない。おれはとりあえず半笑いで窓から逃げ出した。光とマグマが後を追ってくる気配がした。──二人ともわかってない。メアリの中身はおれ以上におっさんみたいなもんだってことを。


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