仕事をサボった。なんだか気分じゃない、という社会人に許されないような理由で普通に仕事をサボった。面倒なんだから仕方ないと思う。うんうん。でもそんなことしたらメアリが一人で昼飯を食うことになるのかなァ、とか、マライアとかいう子と一緒に食べてるか、とか色々と理由をつけてやはり行くことはしなかった。何をしていたか、と聞かれるととても困る。何もしていなかったからだ。

 翌日、仕事場に顔を出して「あ」と言葉をこぼした。そうだ、今日メアリ休みじゃん。じゃあ今日もサボろう。そう思って窓から飛び降りようとしたら、ちょうどよくサカズキが部屋に入ってきて、物凄く怒られた。面倒くさいなァ……と思って「うん、そうだね、おれもそう思う」と言い続けたらマグマグされた。冗談通じねェな、本当に。
 そうこうしている間にメアリが休みの間だけ来ている秘書官が呼ばれて、おれは仕事をさせられる。うわァ、面倒くせェ……。ぱらぱらと書類をめくり、本当におれが見る必要があるのかと首を傾げる。大将って、こんなことする意味あんのかァ? 思っても秘書官は次々におれに仕事を押し付けてくる。……おれの仕事だからおれに押し付けて当然なんだけどクソ面倒くせェ。しかもメアリより前から一緒に仕事をしていたはずなのに、その秘書官よりもメアリの方がおれの間をわかってるってんだから困る。
 けれど昨日休んだ分、仕事は溜まっている。今日出さなきゃいけないもんはないが、昨日出さなきゃならなかった分が結構あったりする。だからサボったんだよなァ、昨日。あまりにも面倒くさくて、何にもしたくなくって。これって鬱の症状じゃねェか、と一瞬心配になるがおそらくそんなふうに自分で思えるうちは大丈夫だろうと素人判断。あ〜、面倒くせェ。それでも手を動かしていれば、ぼーんぼーんと音が鳴った。十二時、昼休憩の時間である。秘書官がそれらしく眼鏡をくいっと上げる。笑わせる気だろうか。


「……もう昼ですね。いいですか大将、逃げ出さないでくださいよ」

「はいはい……わかってるよ」


 じろりと見られたし、おれもイエスと返事をしたが、こいつが部屋を出たら逃げることにしよう。秘書官なんかに捕まるようなおれではない。秘書官は胡乱げな目でおれを見ていたが、自分の食事を取るためか、部屋から出て行った。そうだよなァ、仕事しねェ上司の世話してたら昼休みくらい顔見たくねェよな。一人で頷きながら窓枠に足をかけた、ら、


「お邪魔するよォ〜……おやァ? どこに行く気だい、クザン」

「……ボルサリーノ」


 なんつータイミングで……。光の速さで動くボルサリーノから逃げるとなれば、本気になるしかなくなるだろう。それは最早逃げ出すというよりも戦闘だ。さすがにサボるだけでそこまでのことをしようとは思わない。仕方なく足を下ろせば、ボルサリーノはニコニコといつもの笑みで近づいてきた。その笑みの底知れなさ、というか、恐ろしさ、というか。有無を言わせぬ笑みのおかげでおれは椅子に逆戻りだ。


「それで? なんか用? もう仕事ならいらねェけど」

「メアリに用があったんだけどねェ、今日は休みだったかァ〜」


 完全に休みを把握しているのは、おれとセンゴクさんくらいなものだろう。基本的に仕事をサボるおれにメアリが割り当てられているし、その割り当てを行っているのはセンゴクさんだからだ。だから一応三大将付きのメイド、ということになってはいるが、ボルサリーノはメアリのスケジュールなぞ知らないのである。メアリの方はスケジュール知ってるかもしれねェけどな……。
 メアリがいないのだからさっさと執務室に戻ればいいのに、ボルサリーノは客用のソファに腰を下ろした。その手には似合わない可愛い柄の紙袋がある。それを渡しに来たのだろうか。おれの目線に気が付いたボルサリーノは、ニコニコと笑ってこっちを見た。


「昨日のお礼に持ってきたんだよォ」

「昨日の礼?」

「うん、昨日ご馳走になっちゃってねェ〜」


 そう言われても何を言われているのか、まったくわからなかった。年齢も階級も何もかも上であるはずのボルサリーノがメアリに奢られた、というのは想像してみたらあまりにもおかしい光景だったので、そういうことではないだろう。ならば何かお土産でも持ってきた、ということか。どこかに行ったという話は聞いていないが、メアリは近くの店で美味しいお菓子があったと言って持ってくることがあるので、それをおすそ分けしたに違いない。おれの考えは結構いい線行っているはずだと思ったのだが、そんな予想に反し、ボルサリーノの口からはとんでもない言葉が出てきた。


「いやァ、メアリって料理美味いんだねェ〜」


 りょ、う、り? 思わずおれが思考停止してしまったのも無理はないと思う。料理を披露する機会が何故本部にいて訪れるというのだ。混乱しているのがわかったのだろう、ボルサリーノは朗らかな口調で答えた。「お弁当を持ってきててね、それをいただいたんだよォ〜」と。今度は違う意味で思考停止した。メアリがお弁当? あの、仕事以外は好きなことだけしかしない面倒くさがり屋のメアリが? メアリはたしか家事の中で一番料理が面倒くさいと言っていたはずだ。そんなメアリが何故お弁当など持ってきたのか。おれの脳内はちょっとどころじゃなく混乱した。そんなことで混乱してどうすんだよって感じだけど、混乱してしまった。けれど最終的に行きついたのはそこじゃあない。なんで作ってきた、とか些細なことだ。


「サカズキも一緒に食べたんだけど、プロ並みに美味かったよォ〜」


 なにそれずるい。


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