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レダのフロントで何故か少しだけ待たされた後、鈴歌は部屋の鍵を開けると、ベッドに放った鞄の脇に置かれた折り畳まれた衣服を見て瞬きをした。

――白地に、紺と紅の縁取りの長衣。
衣服の上に添えられた『お客様宛ての贈り物です』と書かれた走り書きのメモに誘われるままに袖を通すと、まるで鈴歌のためにあつらえられたかのように、丈もぴったりだった。

見た目の割に軽く、動きやすい布地。
寒冷期に内にも外にも着込めるように多少のゆとりをもって作られているが、もたついた印象はない。

「…こんな素敵な贈り物をくれたのは、誰かしら?」

くすりと微笑んで部屋を出ると、白衣を纏ったままフロントに顔を出す。
流麗な現地語で礼を伝えると、レダのオーナーと名乗る女主人に食堂まで案内された。

木組みのテーブルと椅子が無造作に幾つか並ぶ食堂は自然の温もりが活かされていて、ほっと一息つけるような空間だった。

オーナーはミレアと名乗り、自らキッチンから大皿に載った二人分の料理を運んで来て、鈴歌の目の前の椅子に腰掛ける。

「キトシュに…マルカ…」

パン生地を丸く広げた上に木の実と、鳥の肉を細かく刻んだものとを載せてから、手で千切った香草を加えて竈(かまど)で両面焼きをした…昔から変わらない主食のキトシュ。山羊のミルクに秘伝の薬草をすりつぶしたものを混ぜて煮詰めた苦甘いマルカ。
マルカの入った木のカップを額近くに掲げて万物に感謝を捧げ、一口飲んでからキトシュを口に含むのが古くからの慣例だった。

ミレアに先を譲られた鈴歌がごく自然に慣例に倣い…身体が記憶するままに食事を始めると、ミレアもまた一連の所作を終え、キトシュを一口食べてから感慨深げに口を開く。

「あんた、本当にここの人みたいだねえ…。よく来てくれたねえ、スズカ、この街に。…この街は、ずうっと、あんたを待ってたんだ」

「私を?」

ため息のようにゆっくりと吐き出される言葉を聞いてから鈴歌が訊ねると、ミレアは目尻に皺を集めて柔らかく微笑んだ。

「そうさ…。族長様…アルメラス様に聞いてごらん。それにしても、はるばるよく来てくれたねえ…同胞(はらから)よ」


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