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かつて歴史が刻まれる前、この地にはアンスルという神殿都市が広がっていた。
古の文明の欠片を探り歩くように、鈴歌は街からはだいぶ距離のある遺跡群を目指す。

民家の途絶えた場所に立つ指標に従って、厳しい傾斜を、ひときわ緑の濃い山を正面に見据えたまま登ってゆく。
傾斜は坂ではなく薄茶けた石段になっており、右脇には急な段差の段々畑が石段の遥か上方まで果てしなく繋がっていた。

一段踏みしめるごとに、細い両足には、疲労と懐かしさが染み込んでくる。
時折石壁に手をつきながら休息を取り、ようやく広い都市跡にたどり着いた時には小一時間が経っていた。

(…あれから、どれほど経っただろう)

背中で髪を束ねていたリボンをほどくと、ざあっと吹きつける風に漆黒を遊ばせてみる。

(愛おしいわ…)

灰色のアスファルトには程遠い、むき出しの大地。
丈の短い草葉が隙間なく繁る焦げ茶色の地面から伝わるのは、紛れもない温もり。

「――フェンランジュ…(愛しき故郷…)」

そっと溜め息を漏らすと、少し先に居た数人のうちの一人、長身の男性が不意に振り向いた。



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