――今やあえて誰も気に留めないが、鈴歌には不思議な癖があった。
毎夜、どこの国の言葉でもない不思議な言語を謡(うた)うように紡ぎながら、凛とした表情で厳かな舞いを数度繰り返す。
早瀬が山城に尋ねたところ、不思議な言語は昔から口にしていたという。


…鈴歌は早瀬の義父母に度々語っていた。

『私は、約束を守るために生まれました。いいえ、鈴歌としても約束を守りたい、あの穢(けが)れなき約束を。…だから私は学ぶのです、己の力で羽ばたくために。…義父さん、義母さん、いつか時が来たら、私は往かねばなりません』

神妙な顔で語る鈴歌に、義父母は当初柔らかく笑っていなしていたが…
やがて、十五の鈴歌から『約束を守りに行きたい』と、とある国の高山地帯の地名と道順がびっしり書かれたノートを手渡されると、そうもいかなくなってしまう。

義父母は鈴歌の決意が揺るがないことを知ると、必ず大学院に戻ることと、休学は半年だけ、という期限を設けた上で名目上の『語学留学』を容認した。




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