時は西暦二千七十三年。
四季が彩をみせる島国、日本はいつしかその内の二季を失い、豪雪の冬と酷暑の夏とが交互に訪れる厳しい気候となっていた。
日照りによる干ばつも徐々に忍び寄り、先進の環境設備に限界を覚えた学者たちはこぞって、歴史を遡るようになった。
無から有を生む技術…不毛な地に灌漑(かんがい)設備を敷くなどして繁栄した古の民たち、その叡知にあやかろうとしたのだ。

教育制度も大幅に改革された。
年少の者でも可能性のある者には相応の学び場が提供され、未来を憂う資産家たちもまた、彼らに多額の出資をした。

今年十六になる早瀬鈴歌(すずか)も、幼い頃に資産家夫婦の養子になった一人だった。
『ものの覚えが早すぎて気味が悪い』という理由から幼くして両親の手を離れ、『ものの覚えが恐ろしく早い逸材だ』という理由から養子に欲しいと歓待された鈴歌。
彼女は六歳の時に山城(やましろ)から引き取り先の早瀬へと姓を改めた。

鈴歌は極めて優秀だった。
読んだ本の内容は一つも漏らさず知識として身に付け、聴いた言語もすぐに我が物にした。
人間性においては難ありな部分があったが、才知を重んじる早瀬一家は別段意識せず、我が子として鈴歌に接していた。

やがて十二になる頃には鈴歌は多種多様な言語を理解し、専門機関が行った調査試験で考古学や史学においても秀でた成果を打ち出した。
大学院生と同等の論述力、各種学力が明示されていたため、鈴歌は同年に大学院直結の大学に飛び級入学、その二年後には全科目の履修条件を満たして事実上大学の学部を卒業、学士号を取って大学院に移った。




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