「…っ。『アラミ エン エルセス クルス…(友よ 我に光を…)』。…確かに私一人、何を言ったところで妄言に過ぎないでしょう。だから、私はこの場で一つだけ種を蒔いておきます。アンスル遺跡群の秘密はまだ明かされていない。…神殿跡の一つ、ルシア神殿の地下神殿に今なお眠っている剣(つるぎ)を見つけて下さい。月光色の石がはめ込まれた剣です」
真顔でまだ若い男性教授を見据えた少女は、これから半年大学を休学する旨の承認済み書類と簡単なメモを教授に渡すと、言葉を繋いぐ。
「私は明日出国します。名目上は語学留学ですが、今までさんざん私の言動に悩まされた先生なら、真意はお察しでしょう?」
教授は書類と流暢な現地語で書かれた行き先のメモを見比べると、ゆっくりと首を横に振って、深くため息をついた。
「――正気の沙汰ではないな。君の頭脳は買っていたのだが」
「『史実だけが全てではない、歴史は日々変わりうる』、そう仰ったのは先生です。私はそんな先生だからこそ、お伝えしました。今一度歴史に問い、答えを得て下さい」
少女は落胆する教授に凛(りん)と微笑むと、微かにどよめく史学ゼミ室を後にする。
その足取りは軽く、しかし決意に満ちていた。
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