「それは違う」

――時は廻った。

しん、と静まりかえった教室で、腰までの長い黒髪を一つ結びにした少女は鋭い眼差しで口にする。
漆黒の瞳に射抜かれた教授は、またか、というように軽く首を振った。

「…また貴女ですか、早瀬(はやせ)君。講義妨害もほどほどにして下さい。これは確たる史実であって、君の発言は妄想に過ぎない。判りますか?」

「解らない。アンスルでは確かに人身御供の慣習はありました。けれど、それはこの文献に書いてあるような虐殺ではありません。歴代の巫女たちは尊重されていましたし、自らの使命に誇りさえ抱いていた。身を拘束されることもなく、自らの足で泉まで歩いたんです、彼女たちも、わた――」

言いかけて、早瀬と呼ばれた少女ははっと口を押さえる。
そんな早瀬を一瞥(いちべつ)して嘲笑いながら、教授は言った。

「『私』も? …馬鹿馬鹿しい。それこそが欺瞞(ぎまん)だ。貴女はその時代から生きていたとでも言うのですか? そんな奇想天外な事実があるなら証明してごらんなさい。貴女とて判っているのでしょう? 根拠なき言及は無力だと」



prev next

bkm back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -