それから知ったことだけれど、ウルは生まれた集落では「禁忌の子」として忌み嫌われていたらしい。
半陰陽…男女どちらでもない体を持つ者はこのアンスルでは御使いとして崇められる存在だが、ウルの故郷では真逆の存在だったようだ。

ウルは奇しくもリュリと同じ五歳の時に集落の幽閉搭に閉じ込められて生きてきた。
そして先の戦で奇襲のための囮として駆り出され、アンスルの守備兵に捕まった。
ウルの部族はウルもろともアンスルの部隊を滅ぼそうと計画していたが、失敗に終わったらしい。

だから、なのだろうか。
本来敵兵のはずのウルにはしかし、リュリへの殺意は全くと言っていいほど無かった。
逆に、『アンスルに来て、生まれてはじめて手当てされた』と瞳を細めて…おそらくは、微笑んでいたのだと思う。







『ねえ、ウル、あなたの望みはあるかしら? わたしは豊穣祭にはいなくなるわ。だから、それまでに何かウルの願いを叶えたいのだけれど…』

神殿の階段を黙々と掃除しているウルの耳元で、リュリはそっと囁くと。

『それ、巫女さ…リュリの、望み?』

反対に聞き返され、リュリは小さく頷いた。

『そうね…わたし、未来が欲しいの。そのために、ウルの力を借りたいの』

『みら、い…? …、リュリは、おれに笑ってくれた。巫女様だから…は、違う。リュリの願いなら、おれは、叶える』

ウルはぽつりぽつりと言葉を吐き出しながら、階段一段ごとに刻まれた紋様を指差して。

『リュリ、おれ、これが知りたい。これ、文字ってものだって、司祭様、言ってた』

それから、恥じらうように俯くと、ゆっくりと、リュリの顔を見上げた。

『文字…』

リュリは不意をつかれたように呟くと、少しの間瞬きをして、穏やかな声で言葉を紡いだ。

『――ありがとう、ウル。ウルは不思議なひとね。まるで全てを知っているみたい…。…うん、わかったわ、では、ウル、今日からわたしはウルに文字を教えます』



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