「コウクウ…? シャサツ?」
「ユラヌス…ここに入室するための言葉の一部と同じ…かしら」
顔を見合せるセレストとティナの肩にポン、と手を置いたオバケ…リタは、落ち着いて、と囁く。
どうやらリタは自称オバケながらも人に触れられるらしい。
「えーとね、むかかしむかし、この国はもっと大きくて、ユラヌスと呼ばれていました。人間たちは土地を巡って日々争っていたの。争いは次第に激化して、たくさんの死者が出たそうよ。だけど人間たちは争いを止めなかった。…ユラヌス軍はある時、ユラヌスに次ぐ大国…ジルトハイムに向けて大がかりな戦を仕掛けようとした。…そんな折、とある少女の書いた一通の手紙がその戦を抑止し、ひいては全ての争いを終息させ、世界を平和へと導いたの。ここラッセンブルグ城は、その手紙が最初に広まったかつてのユラヌス中心部よ」
ゆっくりと語るリタに、二人は不思議そうな眼差しを向けた。
「…手紙が、世界を平和へ導いた? 慈愛の女神ではなく?」
首を傾げる二人に、リタはやんわりと言葉を続ける。
緑の瞳は、穏やかな色を灯していた。
「――女神という表現は素敵ね。でも、古の争いを終結させたのは、あなたたちより二歳だけ年上の、ごく普通の少女の手紙よ。…遥か遠い過去に、遠い遠いところで命を終えた少女の遺志。…彼女の名前は、セシア・ミュルズ」
「ミュルズ…」
「そう。ユラヌス・トゥ・ミュルズとは、ユラヌスよりミュルズへ、という哀悼で…、フォーエバーとは永遠を表す語句。…この古の秘伝は、ユラヌスの民がいつまでもセシアのことを忘れないようにと大地に刻み込んだ、誓約の文言なの」
――どんな手紙か、気になるでしょう?
微笑んだリタはセレストとティナから離れると、大きな物体の中央の四角い箱の前に置かれた凹凸のある板に触れながら、そういえばあなたたちの名前は? と軽く訊く。
セレストとティナが順に名乗ると、リタは振り返り、いい名前だね、と笑った。
「セレスト君、フィオレンティーナちゃん、このモニタ…っと、この四角い部分をよーく見て?」