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ふいに、四角い箱のつるつるした表面が明るく光る。

先ほどまで暗い色を帯びていたそこには、一つの風景が映し出されていた。

円形の広場の左右に立ち並ぶ彫像のようなものの中央に、大きな石板が立っている。

「…これは、石像…?」

「不思議な格好をした方たちですね。男の方と、もう一つは女の方でしょうか?」

石板の両脇の彫像が気になったのだろう、セレストとティナが疑問符を投げ掛けると、リタは板を弾いていた手を止めて、二人に背を向けたまま口を開いた。

「……この男の人は当時のユラヌス国軍総司令官、アゼル・ディレイ。セシアの手紙を隠蔽滅却措置から守るために国に背いた罪で処刑された反逆者にして、後に希望を守りし英雄として彫像になった人物…。そして、この女の人はキリエ・ムジカ。アゼルの幼なじみの民間人だった彼女は、アゼルから託されたセシアの手紙を、自らの古代技術をもって命を賭けてユラヌス全土に知らしめた――希望を蒔きし功労者。…けれど彼女も、アゼル同様その命を失った」

リタの声はどこか寂しげで、遠く感じられて。
セレストもティナも、それ以上のことを訊かなかった。

リタは自らが作ってしまった重たい空気を払いのけるように、よしっ!と明るく気合いを入れて再び板を弾き出す。

すると、まるでその場を歩いて近づいているかのような感覚で、箱の表面の風景が薄灰色の石板に近づいていった。
表面いっぱいに石板が映された時点で、リタは手元を弾く指を休めて振り返る。

――表情は、綺麗な笑顔だった。

「さてっ、お待ちかね! これがセシアの手紙だよ。古代文字が刻まれてるのがわかるかな? あ、手紙は元々はもちろん紙だったんだけどね、どこに仕舞われたか謎なままなんだ。…この石碑が、セシアの手紙が『人目をはばからず普通に読めた』最初で最後の記録。――セレスト君とフィオレンティーナちゃんには馴染みのない文字だし、私が読むね」




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