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――ひたすら暗闇の中、長い降下を経て、ゴトン、という鈍い音とともに石床は広く眩しい部屋へと収まった。

石床分だけ空洞になっている上を見上げてもどこまでも真っ暗で、とうてい先ほどまでいた資料室の様子は窺えない。

眼をこすって何度かまばたきして、太陽光より明るい光の溢れた部屋を見回す。

部屋には、見たこともない大きな、石でも木でもない…色身は灰色で、四角い形をした箱のようなものを中心に据え付けた、不思議な素材の何か得体の知れないものが置かれていた。
そこを基点に赤や黄や青、緑色などの紐ほどの太さの、これまた不可思議な線が、部屋の至るところに這っている。

「ここは、一体…」

ティナを背に庇うようにセレストは一歩踏み出す――

と。
その大きな物体の前に、突如一人の女性が現れた。

栗色の癖のある髪をゆるく背中側で纏めているらしいその人物の瞳は澄んだ緑色。
衣服の襟元に止められた小さなブローチのようなものには、王家の紋章と似て非なる、何らかの紋様が彩られている。

腰に巻かれた焦げ茶色のベルトには、剣ではなく何か黒いものが見え隠れしていたが、その出で立ちはラッセルブルグ守護騎士団の兵士の服と類似していた。
もっとも、不思議な素材ではあったが。

「――どなたです?」

腰の剣に手をかけながらセレストが尋ねるやいなや、緊張感の皆無な明るい声が部屋に反響する。

「あー、自分はユラヌス国防軍第7航空艦隊所属、リタ・アンバー少尉でありますっ! それはそれはながーい時間、太陽暦5512年現在までここで姿を現しつつ消しつつぼんやり漂っていた、正確には太陽暦3591年3月に反逆者として自軍に射殺された人間です。つまりは過去のオバケですっ」

自称オバケは陽気ににっこりと微笑むと、宜しくね!とウインクした。


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