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――ここ、奥宮殿にある王家専用の資料室には、普段は王かティナ、もしくは彼らの認めた者しか入ることができない。

その床を、と言ったギルは何らかのきっかけでそこにある何かを知ったのだろうか。
…思考を巡らせていると、資料室の扉の前に彫られた王家の紋章に、ティナがそっと手を当てた。

刹那、堅牢な扉が左右に開く。
それは人一人入れそうな幅で停止した。

「今の、は…?」

「わたくしも詳しくは存じませんの。王家の者が触れると開く…古の技術だそうです」

さあ、早く参りましょう、とティナはセレストを中へ導くと、内側から再び扉の紋章に触れる。
――扉は開いた時と同じように勝手に動き、音を立てて閉まった。

「――…」

セレストは唖然としながらも、自らが歩く正方形に区切られた石の床を、一つ一つ注視してゆく。
ティナも同じように床を注視しながら、背丈の高い古めかしい資料棚が並ぶ広い部屋を歩いていった。

――ふと、セレストが立ち止まる。
そこは、資料室の中に幾つかある木製の机のうちの一つが置かれた、埃っぽい場所だった。

「ティナ、見て下さい。ここの机のすぐ脇の床、違和感が」

「…あら? 同じ石材ですけれど、材質が違うのかしら?」

「調べても?」

「いえ、何かあっては危険です。セレストは離れていて下さい」

ティナが屈んで床に触れようとした瞬間、セレストは背後からティナを引っ張って部屋の隅に移動させる。

「何かあって危険なのは貴女です、ティナ。ここで動かないでいて下さいね」

緊張や疲労も相まってか、普段より危なっかしいティナを無事遠ざけると、セレストは机の足元の床にそっと手を伸ばした。

まずは正方形のざらついた石床の中央に、指先でにそっと触れる。――異変は無い。



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